本日の読了本はシェイン・クーンの『インターンズ・ハンドブック』。タイトルだとミステリやら何やらよくわからないが、これは殺し屋ものである。
主人公ジョン・ラーゴはヒューマン・リソース社の若き派遣インターン。しかし、その実は凄腕の殺し屋である。ヒューマン・リソース社は組織的に用心の暗殺を請け負う殺人会社であり、殺し屋をインターンとして送り込み、任務を完遂させていたのだ。
ただし、ジョンは二十五歳の若さですでに引退を控えており、今回の法律事務所への潜入が最後の仕事だった。この年齢を越えるとインターンとしては歳をとりすぎ、不要な注目を集めてしまうためである。
そんな引退直前の彼が、新入りのために最後の仕事を書き記したのが本書、すなわち殺し屋のためのハンドブックである。

うむ、まずまず面白い。
殺し屋ものというと、最近ではジョー・ネスボ『その雪と血を』、少し前だとローレンス・ブロックの殺し屋ケラー・シリーズやスチュアート・ネヴィル『ベルファストの12人の亡霊』、古くはドナルド・E・ウェストレイク『やとわれた男』など、なかなか傑作ぞろい。しかもどれもが独創性に富んでいるのだが、本書もそういう系譜に連なる作品といえるかも。
主人公ジョン・ラーゴはすでに紹介したように二十五歳の若者だが、殺し屋としてはベテランである。彼がこれまでの経験を活かして、教訓などを交えながら最後の仕事を振り返るという形で物語は展開する。
ターゲットは法律事務所の三人の共同経営者のうちの誰かであり、それを突き止めることがまず必要というわけだが敵もさる者、そういう不測の事態を防ぐべく凄腕の兵隊を配下に置いて防衛に当たっている。ジョンはその障壁をどうやってくぐり抜けていくかという、メインストーリーとしての興味がまずひとつ。
さらにはジョンがそもそもなぜ殺し屋稼業を始め、どのように成長していったのかというビルドゥングスロマン的なアプローチも面白い。
主人公はとうてい感情移入できるようなタイプではないはずなのだが、成長過程において、いかにも職人然とした確固たるポリシーを形成するまでにいたり、常に客観的であろうと努めている。殺人というもっとも非人道的な行為において、とにかく現実的かつ論理的に物事を進めるという、そのギャップがなんともいえないブラックな可笑しさを醸し出す。
ただ欠点もないではない。
まず気になったのはどんでん返しの多さ。読者を驚かせたい気持ちはわかるのだが、こういうふうにラストをひっくり返すと歯止めが効かないというか、正直きりがない。
個人的には38章で止めた方がむしろまとまりがあってよく、それでも39章以降をやりたかったのなら、それだけ膨らませて続編にすればよかったのにと思った次第。
また、「インターンズ・ハンドブック」という体裁も気になった。実際には普通に一人称の殺し屋の物語であって、新入りを意識した台詞回しなどはあるにせよ、これでインターンのためのハンドブックというには無理がある。海外の作家は意外にこういう雑なパロディ的手法をとることがあり、残念なところである。
まあ脚本家という本業がある著者の一作目ということで、とにかくいろいろとフックを盛り込みたかったのだろうが、先のどんでん返しの件も含め、控えめにした方がよいときもあるんだよなぁ。先輩格のブロックやネスボの殺し屋ものは、まさにそういう匙加減が上手いのだ。
とまあ、最後はなんだか厳しめになったけれど、独特の味もあり楽しくは読めた。シリーズ化もされているようなので、少なくとも次が出れば読んでみたい。