結城昌治の『夜の終る時/熱い死角』を読む。著者の警察小説の代表長編『夜の終る時』に、同系統の短編四作を加えた、いわば結城昌治警察小説傑作選である。編者はアンソロジーを組ませたら天下一品の日下三蔵氏。

『夜の終る時』
「殺意の背景」
「熱い死角」
「汚れた刑事」
「裏切りの夜」
収録作は以上。
『夜の終る時』については昨年、角川文庫版で読んだときの感想があるので、詳しくはそちらをご参考に。ノワール色の強い警察小説だが、構成にも趣向を凝らしており、警察小説好きなら必読である。
さて残りの四短編だが、『夜の終る時』に比べるとさすがに分は悪いけれども、それでも警察という権力機構のなかでもがき苦しむ人々の姿を描き、その苦さがなんともいえない余韻を残す。昭和という時代の緩さも今となっては逆にいい味になり、この空気感を味わうだけでも価値はある。
小市民的といえば小市民的な登場人物ばかりなので、その辺の辛気臭さが耐えられない人にはオススメしにくいが、多少は年をとらないとこの良さはわからないかもしれんなぁ。
「殺意の背景」はバーに勤めるホステスと結婚を決意した刑事が主人公。上司から訳ありの女性ではないかと結婚に反対されるが、そのさなか、彼女は殺害されてしまう。事件の様相をガラッと変える真相はそれなりに面白いが、主人公の胸中を思うと読み手も実にしんどい。
刑事が自分の妻の過去を探り、絶望の淵に叩き落されるのが「熱い死角」。終盤のたたみかけがやや淡白で、それが効果的な部分もあるのだけれど、これは少し長めで読みたかったかも。ただ、こういう方向性が結城昌治ならではの魅力である。
真面目なことで知られる刑事がなぜバーで暴力事件を起こしたのか? 「汚れた刑事」は終始、刑事の動機にスポットが当てられるが、構成のせいかそれほど意外性を感じられず、ちょっと期待はずれ。
なんとも切ない物語ばかりの中にあって、最後の『裏切りの夜』だけはハートウォーミングなラストが胸を打つ。これを最後にもってくるのは編集の妙だよなぁ。さすが日下さん。