三日ほど前のことだが、店頭でたまたま目にとまって『全国作家記念館ガイド』を購入する。タイトルどおり全国にある作家の記念館や文学館を紹介したガイドブックである。博物館や美術館ならともかく、文学館ともなるとどれだけ需要があるのかは不明だが、個人的には嬉しい一冊。
というのも、これぐらいインターネットで探せるだろうと思っていると、意外にこういうのをまとめたサイトは少ない。個人レベルでやっているところは情報量が圧倒的に少ないし、唯一、公式っぽい「文学館研究会」が公開しているサイトは二年ほど前に更新がストップしており、それ以降の閉館・新館には未対応だ(それでも助かるけれど)。

中身の方はというと、基本一〜二ページで一館紹介というスタイル。概要のテキストと写真数点のほか、所在地や営業時間、料金、休日、といった基本情報という構成で、今時だなと思ったのは各館へアクセスするQRコードがついているところか。決して一館あたりの情報は多いとはいえないけれど、まあ、物理的に考えるとボリュームはこれぐらいが限界であろう。
ただ、そういう物理的な制限がある中で、残念ながらテキストについては物足りない。本書はあくまで作家の「記念館」や「文学館」についてのガイドブックであり、「作家」のガイドブックではない。それなのにテキストの半分が作家の紹介で占められているのはいかがなものだろう。
たとえば「室生犀星記念館」だと、せっかくの二ページ構成なのに、テキストの八割近くが作家の紹介である。もうアホかといいたい。室生犀星にもともと興味があるから「室生犀星記念館」に行くための情報がほしいわけで、室生犀星の半生をこの少ないスペースで紹介してどうするという話である。
それよりも記念館にどういう展示物があるか、どういう展示をしているか、あるいは喫茶スペースや物販はあるのか、撮影はできるのか、近辺の関連名所などの紹介でもいい。そういう「館」の情報をもっと盛りこむべきだろう。
おそらくだが、執筆者が実際に記念館を訪ねて原稿を書いていないのだろう。現地を訪ねれば、普通はいろいろ伝えたいことが出てくるはず。実際、なかにはちゃんと執筆者の感想などが入ったしっかりした原稿もあるのだ(少ないけれど)。
ちなみにカバーや帯に謳っているキャッチにも正直気になる点は多い。まずカバーの「全国258館」というのは巻末リストに掲載している数であって、本文で紹介しているのは実は160館程度。嘘とまでは言わないが、表現としてはかなりグレイである。
また、帯の「全国の文学館・記念館を紹介したはじめての書」というのは明らかに間違い。すでに小学館から2005年に
『全国文学館ガイド』というのが出ており、2013年には増補改訂版も作られている。こういうちょっと調べればわかることをなぜチェックしないのか、編集に疑問が残る作りである。
あと、巻末リストにすら掲載されていない文学館があるのは残念。なんと「山田風太郎記念館」が漏れているのはなぁ。ほかには「世田谷文学館」や「神戸文学館」、探偵名を打ち出したちょっと特殊な「浅見光彦記念館」も抜けているし。
何らかの選択基準があるのか、それとも単に入れ忘れたのか、どちらかは不明だが、この四つはどれもミステリ好きには縁のあるところなので残念としか言いようがない。
ついでに本書で採り上げられているミステリ関係の文学館をいくつかピックアップしておこう。
まずミステリに特化したものだと東京豊島区にある「ミステリー文学資料館」。作家単独のものとしては、三重の「江戸川乱歩館」、山梨の「横溝正史館」、福岡の「北九州市立松本清張記念館」、神奈川県湯河原は「西村京太郎記念館」といったあたりか。
単独ではないけれど「函館市文学館」や「徳島県立文学書道館」、「高知県立文学館」、「北九州市立文学館」などはミステリ作家関係の展示もあり、見て損はないだろう。
ということで注文ばっかり書いてしまったが、最初に書いたように本書を出す意義はあると思うので、次があるならぜひ諸々見直しをしてほしいところである。