令和最初の読了本は、ピエール・ルメートルの『監禁面接』。
まずはストーリーから。
企業の人事部長だったアランが失業してはや四年。六十歳を目前にしてアルバイトで糊口をしのぎながら職探しを続けているが、年齢もあって思うようにはいかず、家族とも気まずくなりがちな日々だ。
そんなアランについにチャンスがやってきた。一流企業の最終試験に残ったのだ。しかし、その試験内容は驚くべきものだった。
就職企業先の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁して尋問せよというのだ。
そこには重役たちの危機管理能力と、採用試験を同時に行うという意図があったが、あまりに馬鹿げている。妻の反対を受けるアランだったが、仕事はどうしてもほしい。アランはこれまでの経験をフル動員して就職企業先を調査して対策を進めるが……。

カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズが終わってノンシリーズの作品が続いているルメートルだが、本作は『その女アレックス』以前に発表された初期の作品である。カミーユのシリーズ化をはじめ、いろいろと模索していた時期だったとは思うのだが、その根底に流れるのは社会や犯罪によって押しつぶされる人間の姿だ。
ただ、ルメートルの場合、そういったメッセージをストレートに伝えるのではなく、ミステリという枠をこねくり回してエンターテインメントとしても最高のものにしようとする姿勢がいい。
本作でも高い失業率と就職難に苦しむフランスを舞台に、その状況が人を圧迫してゆく様子を描いているが、その描き方がなんとも突飛で痛快。
企業を襲撃して重役を監禁・尋問するという就職試験。企業のコンプライアンスや倫理観はどうなっているのだという疑問は当然ありつつ、主人公アランがその難問をどう突破するのかというドキドキ感はなかなか類を見ない。
しかもその襲撃シミュレーションが思いも掛けない結果を生み、さらにはその後の予想もしない展開。二重三重の仕掛けが施されているのは見事としかいいようがなく、あまりに強引なストーリー展開に少々あきれながらも、ここはその力業を堪能するのがよい。
最後は必ずしもすべてがハッピーに終わるわけでもないけれど、これがまたフランスミステリっぽい印象を残し、まずは極上のエンターテインメントといってよいだろう。