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 R・オースティン・フリーマンの『キャッツ・アイ』を読む。ソーンダイク博士シリーズの長編としては六作目にあたる。かつてROM叢書で同人版として訳出されたものが、全面的に改訳され、ちくま文庫版として刊行されたものである。

 まずはストーリー。弁護士のアンスティが帰宅中のこと、助けを求める若い女性ウィニーの声が闇夜に響き渡った。急いで駆けつけたアンスティの目前には、激しく争う男女の姿があった。男は逃走するが、女性は腹部をナイフで刺されており、アンスティは彼女を近くの屋敷に運び入れる。ところがその屋敷でも主人が殺害されており、どうやら同一人物による強盗の犯行と思われた。だが、被害者の弟ドレイトンは納得せず、捜査をソーンダイク博士に依頼する。

 キャッツ・アイ

 ソーンダイク博士シリーズといえば、鑑識や指紋といった当時としては目新しい科学的捜査を盛り込んだこと、また倒叙という形式を生み出したことなど、特に注目すべき点がいくつかあるのだが、結局はロジカルな興味をきちんと満たした本格探偵小説であることが最大の特徴といえるのではないか。
 ソーンダイク博士ものはこの二十年ぐらいで十作近くの長編が訳されており、なかには地味なストーリーだったり、やや冗長な場合もあったり、あるいは科学知識を多用したがために今読むとかえって古く感じるなどの欠点もある。管理人もソーンダイクものの長編を読み始めた頃にはそういう印象をもったこともあったのだが、今はむしろそういう部分はあまり気にならない。先にあげたようにソーンダイク博士ものの魅力は、いずれの作品においてもロジカルな興味を最優先としたところにあり、だからこそ派手さはなくても良い本格探偵小説を読んだという気持ちにさせてくれるのだ。

 本作でもお得意の指紋に足跡や毛髪の謎、たびたび姿を見せる怪しい人物の正体、暗号など、とにかく様々な手がかりやギミックが出てくるのだが、これらがラストの謎解きにおいてきれいにつながるところは、まさに本格探偵小説の醍醐味である。
 加えて本作では、新聞連載ということもあってかストーリーもいつになく躍動しており、語り手のアンスティやヒロイン格のウィニーがアクションパート&サスペンスパートをしっかり盛り上げるなど、読み物としても十分に楽しいものになっている。ともすると人間味のなさを指摘されるソーンダイク博士だが、著者としては別に主人公格のキャラクターを置くことで全体にバランスをとったのではなかろうか。

 とりあえずこれまで出たソーンダイク博士シリーズのなかでは文句なく上位にくる作品。翻訳ミステリやクラシックをなんとなく敬遠している人にも、ぜひ試してもらいたい一作である。
 なお、訳者の渕上痩平氏はSNS等でソーンダイク博士ものの短編全集?を匂わせるような発言もしており、これもぜひ実現してほしいものだ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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