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 ハーマン・ランドンの『灰色の魔法』を読む。ランドンのミステリは同じ「論創海外ミステリ」から先に『怪奇な屋敷』が出ているので、本当ならそちらから読みたかったのだが、積ん読山脈に埋もれてどこにあるかわからず、やむなく本作から手をつける。でも、調べると書かれたのは本書の方が先なので、まあいいか。

 こんな話。義賊「グレイ・ファントム」として世を騒がすアリソン・ウィンダム。しかし、嵐の夜道を運転中にハンドルが利かなくなる。あとの記憶はどこかから転落したらしいこと、そして車が炎上したことだった。
 アリソンが目覚めたのは、とある屋敷のベッドの中だった。そこへ現れたのはトビーと名乗る男。彼はアリソンに向かって、あなたは刑務所から脱走した囚人アラン・ホイトだと告げ、自分はアランの執事だという。また、屋敷はフライ島にある一軒家で、ここにいなければならないと告げる……。

 灰色の魔法

 本作は1925年の作品。当時、義賊「グレイ・ファントム」シリーズは大変な評判を集めていたらしいが、当然ながらルパンやファントマ、ジゴマなどの先輩たちの人気にあやかって書かれたものだろう。日本でも戦前から既に紹介がなされ、乱歩も愛読していたという。
 ただ、いま読むとさすがに物足りない。もちろん時代のせいもあるけれど、当時の他の義賊ものに比べても、内容の浅さ、刺激の少なさといったところで部が悪い。全体に薄味というか、コクに欠けるのである。

 ほぼ先入観なく読み始めたので、序盤はそれなりに引き込まれた。そもそもアリソン・ウィンダムが「グレイ・ファントム」ということも知らずに読んだので、一種の記憶喪失ものだと思っていたのだ。しかも部隊は脱出不可能な孤島の一軒家。サスペンスものとしてはなかなか悪くない設定である。
 ところが、アリソンはすぐにそういった仕掛けをクリアしてしまい、あとはヒロインを従え、ライバルたる悪党の犯罪を阻止するという展開。ミステリではあるが活劇中心であり、謎解き要素は薄い。実は不可能犯罪っぽい要素はあるのだが、オリジナルの毒薬や装置を使ったトリックなので、ミステリ上のルール違反というより、これはもう謎解きへの興味が著者にほとんどないのだろう。
 よく考えると、序盤でアリソンが記憶喪失もどきになる展開も、当時のシリーズ読者であれば謎でもなんでもないわけで。ううむ、少し面白そうと思った自分が恥ずかしい。

 結局、あまり固く考える必要はなくて、主人公とヒロインのハラハラドキドキ、勧善懲悪、ああ楽しかった。これでいいのだ。まだ娯楽の少なかった時代にあって、庶民に安価な娯楽を提供する。そういう本であり、そういうシリーズなのだ。
 まあ、一冊で断言するのはよくないので、とりあえずもう一作出ている『怪奇な屋敷』もそのうちに。こちらは“本格密室”という触れ込みだが、まあ、期待せずに読んでみたい(笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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