大下宇陀児のジュヴナイル長短編を集めた作品集『空魔鉄塔』を読む。発行所は「Noir Punk Press」、レーベル名は「暗黒黄表紙文庫」ということで、やや痛い感じを受けるのが玉に瑕だが、同人版ゆえ温かい目で見てあげるのが吉だろう。
ちなみに副題には「少年少女探偵小説撰集 戦前編」とあり、ここは今後の展開を非常に期待させるとことろである(今月発売予定の
『仮面城』がもしかすると続刊なのかな?)。

「空魔鉄塔」
「金色のレッテル」
「黒星館の怪老人」
「消える少女」
「奇怪な土産」
「六人の眠人形」
「怪盗乱舞」
収録作は以上。「空魔鉄塔」は昭和十二年に「東日小学生新聞」連載されていたもので、本書中、唯一の長編。日本の秘密兵器を狙う敵国の空魔団、それを防ぐ少年少女たち、という展開は当時にはありがちなストーリーなのだが、思った以上にそつなくまとめているのはさすが大下宇陀児。
最近読んでいた楠田匡介、西條八十あたりの破天荒さに慣れてしまうと、少々物足りなさもないではないが、スケールは大きく、ツボも押さえていて安心して楽しめる一作。その他の短編もまずまずといったところ。
ちなみに最近の同人系のなかでは造本がしっかりしているのは好印象。ただ、活字をここまで大きくする必要があったのかは疑問である。そのせいでページ数も嵩張ってしまったのが惜しまれる。
しかし従来は一部の好事家しか興味を示さなかった戦前戦後の子供向け探偵小説だが、最近は商業出版、同人にかぎらず、ずいぶん復刊される機会が増えてきているようだ。ただ、読めば読むほど、いつも乱歩の偉大さを痛感する羽目になるんだけれどね(苦笑)。