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 このところ泡坂妻夫を久々に読みかえしているのだが、本日も久々の再読となる『11枚のとらんぷ』。
 ミステリ作家としてデビューする以前から、すでに奇術師としての顔も持っていた泡坂妻夫。本作は泡坂妻夫の初長編作になるのだが、それまで培ってきた奇術師としての経験や知識を惜しみなく投入した作品でもある。

 まずはストーリー。真敷市公民館の創立二十周年を祝うプログラムが開催された。その幕を開けるのは地元のアマチュア手品集団マジキクラブの面々である。アマチュアゆえのドタバタはありつつも何とかフィナーレを迎えたが、ラストでとんでもないことが。銃声を合図に〈人形の家〉から飛び出す予定だった美人マジシャン水田志摩子が消失したのである。
 驚くべきことに、やがて彼女は自宅マンションで殺害された状態で発見される。そして、なぜか死体の周囲には手品のトリックに使われる小道具が並べられていた。しかもその小道具は、マジキクラブの代表・鹿川舜平が書いた奇術小説集「11枚のとらんぷ」に使われていたものだった……。

 11枚のトランプ

 作家が長編デビューするとき、著者がそれまで温めていたネタや経験を活かすというのはよく聞く話だが、本作はその成功例のひとつ。しかも大成功といっていだろう。
 そもそも奇術とミステリはトリックをはじめとする構成要素において共通する部分が多く、相性もいい。海外でも古いところではクレイトン・ロースンの諸作、新しいものではジェフリー・ディーヴァーの『魔術師』といった例はあるが(そうそうコロンボにもあった)、泡坂妻夫ほどミステリと奇術をここまで融合させた作家はいないだろう。

 本書は大きく三部構成となっている。I部がマジックショーから犯行が発覚するまで、II部が作中作の奇術小説集「11枚のとらんぷ」、III部が世界国際奇術家会議を舞台に展開される推理と謎解きである。
 のっけからとにかく奇術趣味全開。しかもコメディタッチで引っ張るので、ミステリとしてはいまいちなのかと思いきや。実はそんなI部とII部がほとんどこれ伏線の山となっているのがとにかく鮮やかだ。
 とりわけ作中作「11枚のとらんぷ」はマジキクラブの登場人物紹介を兼ねつつ、普通に奇術小説としても楽しめ、しかも殺人事件のヒントにもなっているのは驚嘆に値する。著者の後の作品には、実はもっとトリッキーでトンデモないものもあるけれど、いや、こちらのテクニックも十分すごい。

 それでいてミステリとしてのべーシックな部分もソツがない。犯人はマジキクラブの面々と関係者十人ほどに絞られているが、その時間はみな公民館でマジックショーの真っ最中であり、アリバイは万全。また、奇術小説集「11枚のとらんぷ」に書かれた手品の小道具が死体の周囲に並べられているのは何を意味するのか。そういった疑問がすべて解けていくラストは実に爽快である。どんでん返しもまたよし。

 しいて欠点をあげるとすれば、全体にやや冗長なところか。もう少し登場人物は絞った方がよかったかなとは思うが、まあ、初めての長編でこれだけの作品を書いてくれたのだから細かいことはいいますまい。久しぶりの再読で、本作のプロットの確かさ、完成度の高さを再認識することができたのは収穫である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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