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 ひとり泡坂妻夫まつり継続中。本日は亜愛一郎ものの二冊目の短編集『亜愛一郎の転倒』で、ン十年ぶりの再読。まずは収録作。

「藁の猫」
「砂蛾家(すながけ)の消失」
「珠洲子の装い」
「意外な遺骸」
「ねじれた帽子」
「争う四巨頭」
「三郎町(さぶろちょう)路上」
「病人に刃物」

 亜愛一郎の転倒

 『亜愛一郎の狼狽』同様、ユーモラスでトリッキーな短編集であり、安定の面白さである。
 その理由はいろいろあるのだが、もちろん亜愛一郎という二枚目だけれどドジ、そのくせ頭は切れるという愛すべき名探偵の存在もあるけれど、事件そのものも十分に魅力的だ。
 たとえば、間違った描写の絵がたくさんある美術展とか、朝起きたら家が消失しているとか、いつの間にかタクシーの中に降りたはずの客の死体が転がっているとか、銃で撃たれたうえに、茹でられ、挙げ句に焼かれていた死体とか、とにかく不思議な状況設定のおかげですぐに物語に引きこまれる。
 加えて、亜愛一郎の推理における着眼点の妙、それを裏付ける伏線の数々。ああ、あれはこういうことだったのかという謎解きシーンの面白さは、本格ミステリの醍醐味を満喫できる。
 あと、個人的に気に入っているところとして、必ず狂言回し的な役割をもつキャラクターがいる点がある。ワトスン役というほどハッキリしたものではないが、主にその人物の視点でストーリーが進行し、亜と事件のいいハブ役になっている。事件の不思議さや亜のキャラクターを引き立てているというか、物語をいい感じで膨らませてくれる効果的な存在といえるだろう。
 以下、各作品ごとに簡単なコメント。

 巻頭を飾るのは「藁の猫」。ある亡くなった画家の個展の中に、六本指の女性や、重力を無視した水差し、針が間違った時計など、さまざまな間違いがあることに気づく亜愛一郎。そこから画家の性格、過去の事件に迫る過程がスリリング。

 「砂蛾家の消失」は家の消失トリックが豪快な一篇。アイディアは面白いが、正直、リアリティはかなり低いか。ただ、短いながらもどう転んでいくかわからないストーリー展開は秀逸。

 「珠洲子の装い」はどちらかというと日常の謎的な作品。事故で死んだ女性歌手のそっくりさんコンテストが行われるが、なぜか一人だけ妙な人がいることに気づくファンの女性。その違和感の正体とは? 逆説的ロジックの面白さは「藁の猫」とも共通するところだろう。

 「意外な遺骸」はタイトルもそうだが、回文がネタとして頻繁に使われており、それも面白いのが、実は童謡を用いた見立て殺人が肝。有名な「あんたがたどこさ 肥後さ、肥後どこさ〜」という、あれである。その童謡のとおり、撃たれ、茹でられ、焼かれた死体が発見されるが、有名なトリックの応用としてきれいにまとめている。

 ドライブインで拾った帽子を落とし主に届けようという「ねじれた帽子」。ちょっとちぐはぐなところもあるのでミステリとしての出来としてはちょっと落ちるが、ドタバタ的な面白さはある。

 「争う四巨頭」も日常の謎的な一作。名家の娘が元刑事のもとへ訪ねてきたが、彼女によると、祖父ら町の大物四人が集まって何やら企らんでいるのが心配という。相変わらず伏線が効いており、元刑事のキャラクターや心理もある意味、伏線のひとつといえるだろう。

 タクシーの後部座席に降りたはずの客の死体が転がっているという不可思議な事件が「三郎町路上」。けっこう正統派の本格ミステリで、むしろこのシリーズには珍しい一作といえるかもしれない。
 あと、どうでもいいことだが、泡坂妻夫の描く男勝りの女性の口調だけはいまひとつ馴染めない(苦笑)

 「病人に刃物」は、病院の屋上で起きたナイフによる刺殺事件の謎を追う。しかし、犯行時、現場には誰もいなかった……。真相はそれなりに意外だが、状況や設定にいろいろ無理があるかもしれない。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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