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 ちょっと遠出していたせいでこの二、三日は読書時間もほぼ取れず、本日は軽いものでお茶を濁す。湘南探偵倶楽部さんが復刻した大下宇陀児の『情婦マリ』で、短編を小冊子にしたものだ。

 こんな話。使い込みで薬局をクビになったチンピラの玉野圭三郎は、主人への逆恨みと自宅に溜め込んでいるという現金を目当てに、薬局へ強盗に入ろうと計画する。その話を愛人のマリにしたところ、彼女はそれなら自分が薬局の使用人として潜入し、現金の在処を探ろうと提案する。マリはさっそく色気を武器に、薬局へ勤めることに成功するが……。

 情婦マリ

 薬局への強盗を、犯罪者の側から描いたクライムノベル。強盗の方法や犯行が失敗する過程などには特別な趣向はなく、決して倒叙というようなものではない。読みどころはチンピラカップルの圭三郎とマリに代表される、この時代の若者の無軌道な行動や生き方であり、後年、大下宇陀児が意欲的に書いていた社会派としての部分にあるだろう。
 特にタイトルにもなっているマリのキャラクターが秀逸。本人も自分が何の教養もない人間であることを自覚しつつも、その根底にあるのは自分自身の絶対的な倫理感覚である。一般的な倫理感とのズレは当然あるわけで、その差が怖さを感じさせる。
 昨今、ニュースでも若い両親の子供への虐待事件がよく取り上げられているが、それに通じるところも大きく、今だからこそよりリアルに感じる一作といえるだろう。

 なお、本書は「知られざる短篇 其の一」という副題が示すとおりシリーズになっているようで、今後の展開にも期待したい(すでに「知られざる短篇 其の二 R岬の悲劇」も刊行されている)。
 ただ、一つ注文をつけさせてもらうと、本文の組み方が当時の雑誌に掲載されたものをそのままコピーしており、それは別にかまわないのだけれど、ページ数を減らすための調整だろうか、本文に長体をかけており、これが非常に読みにくい。幸い先に挙げた「其の二 Rの悲劇」で修正されているので一安心だが、このあたりは今後も気をつけていただきたいところではある。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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