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 論創海外ミステリからパット・マガーの『死の実況放送をお茶の間へ』を読む。刊行されたのは昨年の九月だが、先日読んだ創元推理文庫の『不条理な殺人』もほぼ同じ時期に刊行されており、本格ファンの間では時ならぬパット・マガー祭りの様相を呈したとか呈さなかったとか。

 こんな話。マスコミ業界誌〈エンタープライズ〉の調査係メリッサは、あるとき有名コメディアンのポッジが出演する番組を取材することになる。だがメリッサには仕事以外にもうひとつの狙いがあった。実はメリッサ、その番組に出演するアナウンサーのデイヴと学生時代にデートをして、大きくプライドを傷つけられる出来事があったのだ。そんなデイブに軽い復讐を考えていたのである。
 ところが、いざ番組の関係者に取材を始めると、そこには主演のポッジとを中心とした複雑な利害関係があることがわかり、デイヴへの復讐は棚上げに。それどころか生放送中に恐るべき事件が発生して……。

 死の実況放送をお茶の間へ

 探偵探しや被害者探しといった初期の趣向を凝らした作品とは違い、その後は比較的オーソドックスな作品と聞いていたのだが、『不条理な殺人』、『死の実況放送をお茶の間へ』と読むと、やはりこの作家は一筋縄ではいかないなと思う。
 この二作にかぎっていえば、事件発生が終盤にあること、そして動機の面白さという共通項があるのだが、この共通項にあげた点が、結局は物語そのものの面白さにつながっている。

 特に本作では番組関係者の利害関係がいくつも取り上げられ、そのポイントが一点(あるいは一人)に集約されるところが肝である。そのうえで読者の予想を外すような事件を発生させるのが著者の狙いであり、そして真相はさらにその裏を書くという寸法。コンパクトながら実にスマートに、物語にアイデアを落としこんでいるのが見事だ。

 ユーモアをふんだんに取り入れ、主人公のロマンスを絡め、古き良き時代のテレビ局の内幕も見せるなど、味付けのバランスについて非常にうまくコントロールできているのも好印象。
 一見するとより幅広い読者を対象に方向転換したイメージもするのだが、その真相はミステリのコードを理解している人間であればより愉しめるような類のものであり(そこまで大仕掛ではないけれど)、やはりパット・マガーは曲者である。

 小粒といえば小粒だし、歴史的な傑作とか重厚な大作といった評価とは無縁だろうが、個人的には読んで楽しく、しかもミステリの多様性を感じさせるという意味で悪くない作品だろう。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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