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 泡坂妻夫の『煙の殺意』を読む。シリーズキャラクターの登場しない初期のノンシリーズ作品を集めた短編集。収録作は以下のとおり。

「赤の追想」
「椛山訪雪図」
「紳士の園」
「閏の花嫁」
「煙の殺意」
「狐の面」
「歯と胴」
「開橋式次第」

 煙の殺意

 着想の面白さ、上質な語りと適度なユーモアや叙情性も散りばめられ、安心して楽しめる短編集である。亜愛一郎シリーズと雰囲気は似ているものの、内容的にけっこうバラエティに富んでおり、なかにはホラーチックなものまであるのが興味深い。ともかく秀作揃いの一冊なので、ファンならずとも一度は読んでおきたい。
 以下、作品ごとの感想を簡単に。

 冒頭から異色作の「赤の追想」。バーで女友達と会っている男性が、鋭い推理を発揮して女性の失恋話を掘り下げてゆくのが面白い。失恋話の真相も意外性があって悪くない。

 「椛山訪雪図」は本書でのベスト候補。美術品収集家の家で起きた殺人事件だが、絵画の図案や収集家の人生までをも重ねた構成が非常に巧み。

 「紳士の園」もかなりの異色作。出所したばかりの主人公が、刑務所で知り合った男性と公園で出会い、そのまま公園の白鳥を捕まえ、鍋にして花見としゃれこむ。ところが公園の茂みで死体を発見し、二人は慌てて逃げ出すが、なぜか翌日になっても死体や白鳥のことは一切ニュースに出てこない……。
 二人の会話や行動に味があって、それだけでも楽しい作品なのだが、そこにオチをもってくることで、一気に「奇妙な味」に化ける秀作。

 外国人のお金持ちに見初められ、友人にも知らせず異国へ嫁いだ女性と、その友人の往復書簡だけでまとめた作品。作品としては悪くないのだけれど、やや手垢がついたネタだけに、これはさすがにオチが読めてしまった。

 「椛山訪雪図」と並んで本書のツートップに推したいのが「煙の殺意」。デパートで大火災が起こり、そのニュースに気が気でない刑事が、あるアパートでの殺人事件を捜査する。一見、単純な事件に思えたが……。
 著者のデビュー作「DL2号事件」に通じるところがあり、犯人の行動の裏にあるものに驚かされた。

 「狐の面」はある山村へやってきた山伏一行をめぐる物語。山伏たちはプチ奇跡を起こして村人を魅了するが、その背後にはなにやら胡散臭いものが……。出来でいうと上記のツートップに譲るが、インパクトは勝るとも劣らない。山伏のプチ奇跡を次々と解説する面白さ、その山伏ネタが単なる前菜だったことも含め、予想外の展開に圧倒される。

 「歯と胴」は倒叙もの。被害者の痕跡をどう始末するか、徹底的な手段にこだわる犯人の姿も薄ら寒いが、最後には別種の怖さが待っている。

 開橋式が行われようとする矢先、招かれた警察署長が昔に手掛けた迷宮入り事件とそっくりなバラバラ殺人に遭遇するというのが「開橋式次第」。ドタバタは楽しいが、手がかりがちょっとあからさますぎるか。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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