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 泡坂妻夫の『迷蝶の島』を読む。泡坂長編としては『花嫁のさけび』と『喜劇悲喜劇』の間に書かれた五番目の作品。

 こんな話。親が資産家であるのをいいことに、毎日を趣味の文学やヨットで過ごす大学生の山菅達夫。ある日、達夫は親に買ってもらったクルーザーで出航するが、危うくヨットに衝突されそうになる。幸い事故には至らず、逆にそれが縁で財閥の令嬢・中将百々子、彼女の大学のOBでヨットのコーチをする磯貝桃季子と知り合いになる。
 達夫は百々子へ思いを寄せるが、ある勘違いがきっかけで桃季子と関係を持ってしまう。だが百々子への想いは絶ち難く、次第に桃季子の存在が邪魔になり……。

 迷蝶の島

 達夫の手記で幕を開ける作品であり、この時点ですでに胡散臭いものを感じるミステリファンは少なくないだろう。ただ、前半はそこまで手記というスタイルを意識しなくてよい。
 主人公の達夫が桃季子、百々子との三角関係に陥り、徐々に桃季子に対して殺意を抱き、それを実行しようとする……犯罪者の心理描写や転落していく様をねちっこく描いており、本作がフランスミステリ風であるといわれる所以である。
 問題は後半だ。前半こそフランスミステリ風な印象だが(これはこれで面白いけれど)、もちろんそのままでは終わらない。達夫の手記は後半になると異常さをみせ、さらには関係者の証言や別の人物による手記が差し込まれ、ラストに至ってようやく著者の狙いが明らかになるという具合だ。
 ただ、意外性はあるものの、登場人物や状況が非常に限定されているので、真相はそこまで予想しにくいものではない。また、描写で少々アンフェアなところや不要な部分もあるのは気になる。

 とはいえ、それこそフランスミステリ風の犯罪小説に捻りを加え、自家薬籠中のものにまとめてしまう手並みは鮮やか。初期傑作群の中でどうしても霞みがちになるのは致し方ないところだが、読み逃すには惜しい一作である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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