行舟文化が刊行を続けているポール・アルテの作品には、予約特典として短編を収録した小冊子がつけられているが、本日の読了本もそのひとつ。先月読んだ
『金時計』の特典『花売りの少女』である。
こんな話。十二月のある日のこと、美術評論家にして名探偵のオーウェン・バーンズは、レストランで知り合った劇作家の男から、かつてクリスマスの夜に起こったという不思議な話を聞かされる。
それはケチで冷酷な大富豪から店をクビにされた親子に起こった奇跡の物語。クリスマスのパーティをしている大富豪たちの眼前で、サンタクロースが実在したとしか思えない出来事が……。

おお、これはいいぞ。ファンタジー色を強く出しつつも、基本的には100パーセント純粋な本格ミステリで、味わいは実にハートウォーミング。まさに王道を行くクリスマス・ミステリである。
トリックはまずまずといったところだが、擬似密室的なネタをふたつも放り込み、そのうちひとつはサンタクロースによる不可能犯罪というのだからこりゃ楽しすぎる。設定や演出の勝利といってもいいだろう。何よりアルテってこういうお話も書けるんだという驚きがある。
今後、クリスマス・ミステリを語るうえで、忘れてはならない一作といえるだろう。
前回の小冊子
『斧』も良かったし、アルテはもっと短編で勝負した方がいいのかもなぁ。