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 大下宇陀児の『仮面城』を読む。東都我刊我書房による私家版で、雑誌『少女倶楽部』で昭和四年から五年にかけて連載したものをまとめた子供向け作品。各章の最後には、次号の煽り文句も併載されていて、これもまた楽しい。

 こんな話。クリスマスも近い十二月の銀座。その露店が並ぶ一角で、バナナの叩き売りをする大柄な老人と、その横で花売りをしている少女がいた。老人はかつて伯爵に仕えていたバナ勘こと武田勘右衛門、少女は伯爵の娘として何不自由ない生活を送っていた柳田由美子である。ところが伯爵夫妻が出先で何者かに誘拐され、さらには金庫にあるはずの財産もすべてが空っぽになっており、二人はこうして日々の糧をしのぐようになったのである。
 そんなある日のこと。由美子は謎の紳士によって東京駅へ呼び出される。その話をバナ勘から聞いた新聞記者見習いの生駒京之助少年。これはどうも怪しいと睨み、バナ勘とともに由美子の跡を追うが、やはり由美子は誘拐されていた。二人は手がかりを追って、ある大型帆船に乗り込むが……。

 仮面城

 これはなかなか出来のよい少年少女向け冒険小説だ。
 もちろん当時の作品ゆえ部分的にはご都合主義や突飛なネタはあるけれども、全体にプロットがしっかりしており、ストーリーの展開がいい。
 銀座や東京駅での事件の発端はスピーディー、巨大帆船のシーンではいったん落ち着き、悪人たちの存在を明らかにするとともに敵の巣窟たる仮面城への恐怖を盛り上げ、そして中盤以降の仮面城では大冒険。それぞれの舞台においては必ず新たな謎を提示し、さまざまなギミックを用意してとにかく飽きさせないのだ。特に「ジェンナー」に関する暗号ネタはけっこう面白い。

 超人的な少年が一人で大活躍するのではなく、バナ勘その他の登場人物にもいろいろ見せ場があるのも本書の注目したいポイントだ。仮面城に舞台が移ると、そちらでも新たに重要なキーマンが登場したりして、これもストーリーが単調になるのを防いでいる。いってみればカットバック的手法なのだが、戦前の探偵小説でここまでスマートにやっている例はあまり記憶にない。個人的には本書でもっとも気に入っているところである。

 しいていえばラストをさらっとまとめすぎた嫌いはあり、この点がもったいないといえばもったいない。正直、もう一回ぐらい連載を伸ばしてもよかったと思えるほどなのだが、とはいえ当時の子供向け探偵小説、特に冒険小説は最後がグダグダになったりするものも少なくないので、本作のようにきれいに収束させているだけでも満足すべきなのかも。

 まとめ。このところ私家版で復刊されることが多い宇陀児作品だが、なんだかんだ言ってもやはり戦前の探偵小説作家のなかでは安定している方なのかなと思う。まあ、経年劣化しているものも多いだろうけれど、本当にどこかで全集組まないかね(笑)。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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