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 リニューアルされた創元推理文庫の『世界推理短編傑作集4』を読む。江戸川乱歩のセレクトによる全五巻のアンソロジーの第四巻。収録作はすべて発表順に並べられており、第四巻ともなると黄金時代真っ只中ということもあって大御所の代表作が目白押し。さすがに内容自体に新鮮味はないが、それでも本書でしか読めないものもあるので、くどいようだがミステリファンには必読の一冊、必読のシリーズである。

 世界推理短編傑作集4

トマス・バーク「オッターモール氏の手」
アーヴィン・S・コッブ「信・望・愛」 
ロナルド・A・ノックス「密室の行者」
ダシール・ハメット「スペードという男」 
ロード・ダンセイニ「二壜のソース」 
ヒュー・ウォルポール「銀の仮面」
ドロシー・L・セイヤーズ「疑惑」
エラリー・クイーン「いかれたお茶会の冒険」
H・C・ベイリー「黄色いなめくじ」

 収録作は以上。旧版との違いを例によってまとめておくと、まず旧版の四巻に収録していたヘミングウェイの「殺人者」、フィルポッツの「三死人」は『世界推理短編傑作集3』へ、同じく旧版のチャータリス「いかさま賭博」は『世界推理短編傑作集5』へ移動している。
 反対にこれまで『世界推理短編傑作集3』所収のノックスの「密室の行者」、ダンセイニ「二壜のソース」、『世界短編傑作集5』所収のベイリー「黄色いなめくじ」は本書に収録された。
 さらにバークの 「オッターモール氏の手」はこれまで割愛されていた冒頭部分を復活させた完訳版となり、クイーン「は茶め茶会の冒険」は「いかれたお茶会の冒険」に改題され、新訳となっている。

 以下、復習も兼ねて各作品の感想など。
 「オッターモール氏の手」は完訳版というのがまず嬉しいが、内容ももちろん素晴らしい。リッパーもの、サイコパスもののはしりという見方もでき、犯人の人物像はなかなかショッキング。中学生の頃に読んだときは、その犯人像ゆえにピンとこないところもあったのだが、久々に再読すると実にスリリングで怖い。語りも効果的。

 「信・望・愛」は奇妙な味の犯罪小説というかミステリ的寓話というか。脱走犯の因果応報をシニカルに描いており、ジャーナリストならではの感性を感じる。おそらくミステリのプロパーであれば、ここまであからさまな展開にはしないだろうが、それがいい方に転がった感じだ。

 「密室の行者」はいま読むと「バカミス」に分類されそうな気もするが、なぜ男は食料が豊富にある密室で餓死したのか、という謎はすこぶる魅力的だ。ミステリのトリックを語るとき、物理的トリックとか心理的トリックという言い方をすることがあるけれど、これは言ってみれば物理的トリックでもあり心理的トリックでもあるという類い稀な例である。そういう意味でも傑作。

 ハードボイルドからはハメットの「スペードという男」が採られている。こういう中に入れられてしまうと、どうしても分が悪く感じられるが、実際、ハメットにはもっとよい作品があるわけで。本作はハメットにしては謎解き度合いが強い作品なので、おそらくそれがセレクトされた理由だろう。

 「二壜のソース」はやばい作品である。乱歩が愛した「奇妙な味」の作品は本シリーズでもいくつか採られているが、なかでも本作はほぼトップに位置するのではないだろうか。同棲していたカップルのうち女性だけが消え失せ、その資産はすべて男のものに。いったい女性はどうなった? ぼんやりと状況が語られつつ最後の一行で明らかになる真実。そしてそのインパクト。
 初読時もそうとうに驚愕した作品だが、何年か前にポケミスでダンセイニの短編集『二壜の調味料』が出たときに再読して、この作品の探偵がシリーズ化されていたこと、しかも犯人までレギュラー化していたことにもっと驚いたのも懐かしい思い出だ。

 ウォルポールの「銀の仮面」も乱歩お気に入りの「奇妙な味」系の作品だが、これは今でいうなら「イヤミス」か。ストレートな恐怖描写や暴力描写がなくともここまで怖さを感じさせるというのは、文章力と構成力の賜物だろう。精神的な暴力が実は一番怖いのだ。

 「疑惑」はピーター卿のシリーズものとはまた異なる味わいで、セイヤーズのダークサイドを感じさせる作品。日に日に体調が悪くなる夫妻。いま世間を賑わせている料理女による一家毒殺事件が、自分たちの身にも降りかかっているのではないかという疑惑の高まりがストーリーの軸となる。真相を予想することはそれほど難しくはないだろうが、それでもラストの二行にはゾクッとくる。

 「いかれたお茶会の冒険」は『不思議の国のアリス』の世界をミステリに持ち込んだ佳作。旧版では「は茶め茶会の冒険」というタイトルであったことは上でも触れたが、さらにその前には「キ印ぞろいのお茶会の冒険」だったはず。ちなみに集英社文庫『世界の名探偵コレクション10 エラリー・クイーン』では「いかれ帽子屋のお茶会」、嶋中文庫『神の灯』では「マッド・ティー・パーティー」という邦題もあるようで、これだけ統一されていないタイトルも珍しいのではないか。
 クイーンの作風といえばロジックの妙がよく言われることだが、本作はトリック重視。何者かが送ってくるプレゼントの意味には唸らされるが、強引っちゃ強引(苦笑)。

 ラストを飾るのはベイリー「黄色いなめくじ」。もちろん謎解き小説としてのアイディアの秀逸さ、面白さもあるのだが、久々に読んでみるとフォーチュン氏のキャラクターや人間味に惹かれてしまう。ちょっとした中編レベルのボリュームがあり、重厚さすら感じさせる傑作である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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