アンクル・アブナーの生みの親、M・D・ポーストの短編「胸の白薔薇」を読む。出典はグランド社が大正十四年に刊行した『探偵傑作集』。わずか二十ページほどの小品で、湘南探偵倶楽部さんが復刻したものだ。
ある日の朝、マーシュという金貸しの富豪が自宅の屋敷で殺害された。死因は刃物による首への一撃。その日、銀行から引き出したはずの現金が盗まれていた。容疑は死体の発見者でもある、同じ屋敷で暮らす執事だった。執事の娘マリーは父親の無罪を信じるが、弁護士までが執事を見放す始末。
そんなマリーが街中で呆然としているとき、彼女に話しかける一人の女性があいた。それは今、街で評判の美人女優ミス・ローランであった……。

今だったら普通に警察の捜査でも十分解決しそうな事件だし、ちょっと強引な部分もあるのだが、時代やボリュームを考えるとさすがに内容云々をいってもしょうがない。むしろ、それ以外にいろいろ気になるところのある作品だ。
たとえばポーストはアンクル・アブナー以外にも何人かシリーズ探偵を生み出しているけれど、本作に登場する女優探偵ミス・ローランは本作かぎりの登場なのだろうか。女優ならではの探偵方法というか、美人の売れっ子女優という立場を生かした捜査手段は良くも悪くも現代にも通じるもので、ちょっと気になる存在である。
また、ポーストの作品にはヒューマニズムを常に感じることができるが、本作でもそれは変わらない。探偵役が裕福な階層というのは少し引っかかるけれども、社会的弱者に向ける著者の目は常に温かく、アメリカのもつ正義感がまだ真っ当な時代だったのだなぁと感じる次第である。
なお、原作に関する書誌情報が、ネットで調べてもなかなか引っかからないのが残念。ご存知の方がいればぜひご教授を。