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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 11 2020

周浩暉『死亡通知書 暗黒者』(ハヤカワミステリ)

 華文ミステリはまだそれほど読んでいるわけではないのだが、一応これまで読んできた陳浩基や陸秋槎から受ける印象では、本格をベースにしつつも警察小説やノワール、歴史など、他ジャンルを融合させ、実に豊穣な物語を作り上げているイメージがある。しかも加味されている要素が単なる謎解きの味付けに終わらず、警察小説や歴史小説としても成立するレベル。まあ、それだけの作品だから邦訳もされるのだろうが、少なくともトップレベルの華文ミステリは、欧米ミステリのトップレベルと比べてもまったく遜色がない。
 そこで本日の読了本、周浩暉の『死亡通知書 暗黒者』。
 これはもう真っ向勝負のエンタメ系警察小説。副次的な要素は一切含めず、シンプルに犯人と個性派揃いの警察チームの対決を、ノンストップで描いたミステリである。

 2002年10月の中国、省都のA市。一人のベテラン刑事、鄭郝明(ジョン・ハオミン)が命を落とす。犯人は復讐の女神〈エウメニデス〉を名乗る人物。彼はインターネット上でかつて悪事を犯した人物を募り、その人物を処刑していく。鄭はその事件を密かに追っていたのだ。
 しかし、その事件すらエウメニデスの計画の一部であった。省都警察は専従班を組織し、韓灝(ハン・ハオ)をリーダーとしてチームを率いるが、その中にかつてエウメニデスと関わりのあった羅飛(ルオ・フェイ)がいた……。

 死亡通知書 暗黒者

 ああ、確かにこれは面白いわ。粗いところも多いけれど、とにかくエンターテインメントに徹している潔さがある。ネット上での評判も宜なるかな。

 何が凄いって、やはりストーリーの面白さだろう。正義の名の下に予告殺人を行うエウメニデスだが、その手口は残虐で恐ろしいまでに緻密。だが警察の専従班も負けてはいない。特殊部隊やコンピュータの天才、犯罪心理の専門家など、各部門のエキスパートを揃え、それぞれの専門知識を生かして犯行を阻止しようとする。エウメニデスはいかにして警察の包囲網をかいくぐり、予告殺人を実行するのか。この知恵比べがとにかく魅力的だ。
 この本筋だけでも普通に面白いけれど、著者は事件の発端を過去のある事件に求めることで、重層的な仕掛けを企てている。一匹狼的な刑事、羅飛(ルオ・フェイ)がまさにその中心にいて、彼が一応は主人公格ではあるが他のメンバーもそれぞれに入念な設定がなされ、それぞれの関係がまたドラマを生む。しかも警察内部のドラマにとどまらず、それがまた本筋の事件とも密接に関係するので引き込まれないわけがない。最初の犯行あたりからは怒涛の展開で、まさにプロットの勝利といえるだろう。

 とはいえ欠点も少なくない。エウメニデスの読みどおりに進んでいきすぎるのでは、というご都合主義。あるいは専従班のメンバーのキャラクターがかなりステレオタイプといったあたりは、欧米のエンタメ作品同様の弱点といえるだろう。何よりイラッときたのは、本作が三部作の一作目という事実である(笑)。
 しかしながら、そういう欠点を認めつつも、トータルで十分に楽しめることは間違いないし、傑作といってよい。警察小説は多いけれども、こういうエンタメに徹したタイプは最近少ないので、おそらく年末ベストテンでも上位に入ってくるだろう。

 ともあれ、本作が中国で生まれたことに恐れ入る。かつて共産圏や社会主義国家ではミステリは発達しないと言われていたが、時代は変わったのだな。まあ、かつての欧米や日本が通ってきた道を、今、中国が通過しているからこそ生まれた作品、と言えなくもないが。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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