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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 12 2020

極私的ベストテン2020

 「探偵小説三昧」今年最後のブログ更新は、もちろん「極私的ベストテン」である。管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選ぶというもの。
 最近の読書のテーマとしては、ロスマク読破計画、昭和作家、同人系作品などがあるが、加えて意識的に海外作家の新刊も追ってみた。その結果が今年のランキングにもけっこう影響しているように思う。
 また、血気盛んな現代ミステリが相手だと、どうしてもクラシックミステリは分が悪いけれど、クラシックの面白さをぜひもっと知っていただきたく、ちょっと評価を甘めにしてあるのはご容赦くだされ(苦笑)。

 では2020年の極私的ベストテン、ご覧ください。


1位 ディーリア・オーエンス『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)
2位 R・オースティン・フリーマン『ソーンダイク博士短篇全集I 歌う骨』(国書刊行会)
3位 周浩暉『死亡通知書 暗黒者』(ハヤカワミステリ)
4位 イーアン・ペアーズ『指差す標識の事例(上・下)』(創元推理文庫)
5位 ウィルキー・コリンズ『ウィルキー・コリンズ短編選集』(彩流社)
6位 エリオット・チェイズ『天使は黒い翼をもつ』(扶桑社ミステリー)
7位 クリフォード・ウィッティング『知られたくなかった男』(論創海外ミステリ)
8位 エラリー・クイーン『ナポレオンの剃刀の冒険』(論創海外ミステリ)
9位 ロバート・ロプレスティ『休日はコーヒーショップで謎解きを』(創元推理文庫)
10位 L・J・ビーストン『ビーストン傑作集』(創土社)


 1位『ザリガニの鳴くところ』は年末ギリギリに読了した一冊で、ミステリ要素は弱いけれどもそれを補って余りある魅力と感動がある。読後の満足感は圧倒的で、今年に関してはホロヴィッツよりも全然上だと思うのだがなぁ。

 2位はクラシックミステリ枠(いつの間にそんな枠が?)から『ソーンダイク博士短篇全集I 歌う骨』。版元は異なるけれど、近年のホームズのライヴァルたち全短編邦訳化のムーヴメントの流れをくむ一冊である。思考機械や隅の老人もそうなんだが、本書も本職ではない方からの発信というのもまた素晴らしい。

 3位は華文ミステリの新しい魅力を教えてくれた一冊。ここまでエンタメに突っ走ったミステリが中国本土で出ていたことに驚かされた。惜しむらくは三部作の一作目ということなので、内容を覚えているうちに早く次が出てほしいものだ。

 4位は歴史ミステリの力作で、これだけやってくれればランクインさせるしかないのだが(笑)、もう少しエンターテインメントというものに歩み寄った方がよかったかなというのはある。ボリュームがあるだけに、著者にはリーダビリティをより意識してもらいたいところだ(何を偉そうに)。

 5位はクラシック中のクラシック。十九世紀の作品だし、サラッとした短編ばかりなので、表面的にはまあまあ面白いといった感じなのだが、エンタメの極意みたいなものを感じられて忘れ難い一冊である。4位の人にはぜひ見習ってもらいたい。

 6位はノワール枠から。ちょっとあざとい感じも受けるが、この完成度はすごい。こういうのを読むと、最近、積むだけになってしまったトンプスンもそろそろ再開しなくてはと思ってしまう。

 7位は久々の英国のクラシックミステリの佳作。解説を担当したからいうわけではなく、本当におすすめである。ミスリードとラストの意外性は「そうきたか」という感じで、上質の読書時間を過ごすことができるはず。

 8位はラジオドラマのシナリオ集だが、クイーンが直接手がけた中からセレクトされたものであり、本格ミステリファンを自認するなら必読レベル。原書では『死せる案山子の冒険』と合わせて一冊なので、そちらもぜひどうぞ。

 9位は昨年の読み残し短編集。本格からサスペンスまでバラエティ豊かな内容で、オチもばっちり決まっている。安心しておすすめできる万人向けの良書。

 10位は迷いに迷ったのだが、文庫化されて誰もが手軽に読めるようになってほしいという願いを込めてビーストンに。


 以上、探偵小説三昧の2020年度極私的ベストテンである。
 なお、本来なら文句なしの一位候補だったロス・マクドナルド『さむけ』だが、こちらは再読ゆえ対象外とした。もちろんすべてのミステリファン必読レベルの作品なので、未読の方はぜひ。
 また、ベストテンには残念ながら入れなかったけれども、以下の作品も心に残ったものばかりなので、順位不問で挙げておこう。

ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(東京創元社)
アンソニー・ホロヴィッツ『その裁きは死』(創元推理文庫)
ニコラス・オールド『ロウランド・ハーンの不思議な事件』(ROM叢書)
ウォルター・モズリイ『流れは、いつか海へと』(ハヤカワミステリ)
ルーファス・キング『緯度殺人事件』(論創海外ミステリ)
マイクル・コナリー『レイトショー(上・下)』(講談社文庫)
ジョセフィン・テイ『美の秘密』(ハヤカワミステリ)
デイヴィッド・ゴードン『用心棒』(ハヤカワミステリ)
ユーディト・W・タシュラー『国語教師』(集英社)
泡坂妻夫『ヨギ ガンジーの妖術』(新潮文庫)
岩田準一『彼の偶像 岩田準一作品集』(盛林堂ミステリアス文庫)

 さらにノンフィクションにもいいものが多かった。『探偵小説の黄金時代』や『筒井康隆、自作を語る』は言うまでもないが、『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』といったマイナーどころも要注目である。
 また、ノンフィクション系では非出版流通というか、つまり同人の作品も増加しており、マニア諸氏のレベルの高さがうかがえる。こちらも準不問でどうぞ。

マーティン・エドワーズ『探偵小説の黄金時代』(国書刊行会)
筒井康隆『筒井康隆、自作を語る』(ハヤカワ文庫)
花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』(西日本新聞社)
木魚庵『金田一耕助語辞典』(誠文堂新光社)
東秀紀『アガサ・クリスティーの大英帝国 名作ミステリと「観光」の時代』(筑摩選書)
久我真樹『名探偵ポワロ』完全ガイド (星海社新書)
-----以下、同人系
小野純一/編『大阪圭吉自筆資料集成』(盛林堂ミステリアス文庫)
森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』(饒舌な中年たち)
kazuou『夢と眠りの物語ブックガイド』

 ということで駆け足ではありましたが、以上をもって今年の「探偵小説三昧」の総括とさせていただきます。
 本年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

新保博久『シンポ教授の生活とミステリー』(光文社文庫)

 ミステリのガイドブックが好きだという話は何度か書いているのだが、なかでもミステリ評論家や書評家が単独で書いているエッセイやガイドブックは好物だ。複数の執筆者によるガイドブックと違い、すべての評価が著者一人の物差しによるものなので、基準が掴みやすくてよいのである。
 もちろん著者によってはけっこうなバイアスがかかっていたりするので、著者のスタンスをしっかり踏まえることは大前提だけれども、それも含めて楽しめるのがよいところだ。
 ただ、残念なことに意外と評論家や書評家の著書は多くない。特にエッセイの類は相当のネームバリューがないとやはり難しいのだろう。

 シンポ教授の生活とミステリー

 という状況にあって、今年、久々にミステリ評論家のエッセイが出た。新保博久の『シンポ教授の生活とミステリー』である。帯には“ブックガイド”と銘打っているが、実質は著者の半生記(とまではいかないけれど)と、その時々のミステリ業界裏話を中心に編まれており、なかなか楽しい一冊であった。

 考えるとミステリの書評家や評論家の方々は多数いらっしゃるが、正直よくわからない存在である(苦笑)。なろうと思ってもなかなかなれる商売でもないし、日々、どういうペースで仕事をしているのかも素人にはよくわからない。
 本書の著者、シンポ教授こと新保博久氏もそんな方の一人で、『日本ミステリー事典』や『日本探偵小説事典』などを監修するぐらいだから相当の知識を有することぐらいはわかるけれども、逆にいうとそれぐらいしかわからない。今でこそ書評に自分語りを入れたりする書評家も増えてきたし、インターネットで自ら発信する方も増えたが、一昔前から活躍している方々はそれこそ雑誌や新聞の書評欄の署名でしか知ることがなかったのだ。
 だから個人的には、本書のミステリに関する情報も参考にはなるが、むしろシンポ教授のこれまでがいろいろ読めて楽しい一冊であった。


ディーリア・オーエンス『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)

 注目作や話題作はできれば旬のうちに読もうと思っているのだが、やはりアンテナに引っかからない本はどうしても出てくる。そんな本はだいたい年末のベストテンでチェックしてまとめ買いするのだが、そのなかで一番気になっていたのが、本日の読了本『ザリガニの鳴くところ』。仕事納めも終わり、ようやく読むことができた。

 1969年秋のノースカロライナ。湿地で男の死体が発見された。保安官が捜査を開始すると、やがて人々は“湿地の少女”が犯人ではないかと噂をするようになる。
 時は遡って1952年。六歳にして家族に見捨てられた少女カイアがいた。その瞬間から彼女は一人で生きてゆくしかなかった。読み書きを教えてくれる少年テイト、船着場の燃料店のオーナー夫妻、何より生物が自然のままに生きる湿地が彼女を支えてくれた。それでも結局、彼女は一人であった。
 そんなカイアの元へ、地元の有名なフットボール選手が近づいてゆく。それは新たな悲劇の始まりでもあった……。

 ザリガニの鳴くところ

 おおっ。これは素晴らしいな。帯には「2019年アメリカで一番売れた本」とか「全米700万部突破」とか実に景気のいいコピーが並んでいるが、それも伊達ではない。
 本作はたった一人で湿地の小屋で暮らした少女カイアの成長物語である。六歳にして家族に見捨てられたカイア。彼女はただの孤児というだけではなく、もともと家族がホワイト・トラッシュ(貧乏白人)に属していた。白人としてはいわば最底辺の階級であり、経済的な意味だけでなく、人格的にも劣る存在として蔑まれていたのだ。
 したがって子供が一人で暮らしているにもかかわらず、周囲の人々もそこまで援助の手は差し伸べてくれなかった。行政も動くけれど、それはあくまで事務的なものであり、家族にも裏切られたカイアの心にはまったく響かない。彼女はあくまで一人で、湿地を母とし、湿地の生きものを家族とし、生きてゆくのである。息苦しい展開も多いけれど、だからこそカイアの言動一つひとつが心に刺さってくる。

 ただ、勘違いしてもらいたくないのだが、本作はただ辛いだけの物語ではない。カイアの自立しようとする姿、僅かながらいる彼女の理解者との交流は、たまらなく胸を打つ。もっとえげつない表現や書き方もできただろうが、著者のカイアを見る目は基本的にあたたかく、読者にも元気を与えてくれるはずだ。
 アメリカの作家はこういう成長物語を書かせると本当にうまい。管理人などはアメリカという国自体に永遠の青年みたいなイメージがあって、若いから力は強いのだけれど、まだまだ成熟していないから失敗も多い。しかし、その心は基本的に真っ直ぐなのだ。アメリカの作家が成長物語がうまいのは、そういうものが根底に流れているからかもしれない。勝手な想像だけれど。

 正直、ここまで内容が充実していればミステリである必要などないと思うのだが、ミステリ的な仕掛けが変な付け足しに終わらず、謎がしっかり物語の推進力を担っていることはよかった。通常のミステリに比べると控え目ではあるが、ラストのプラスアルファなどはけっこう衝撃的で、それが読後の余韻をより深いものにする。

 ともあれ確かに本作は一年のベストを争うにふさわしい作品だ。というか二位で終わっているランキングが多いのは実に残念。


クリフォード・ウィッティング『知られたくなかった男』の解説を書かせていただきました

 Twitterではすでに呟いているが、こちらでも少し宣伝。
 12月10日発売の論創海外ミステリ261巻、クリフォード・ウィッティングの『知られたくなかった男』で、解説を書かせていただいた。
 で、これがお世辞抜きでいい作品なのである。

知られたくなかった男

 クリスマスの夜、英国の小さな町で起こったある男の失踪事件。男は募金集めのために行われていたキャロリングに参加していたため、募金泥棒と疑う者までいる始末。やがて付近の井戸から死体が発見されるが……。

 英国のクラシックミステリらしい魅力に溢れた作品。序盤のキャロリングシーンから雰囲気満点で、そこから失踪事件、殺人事件、アマチュア探偵の捜査という流れはまさに王道。程よいユーモアも心地よく、ラストで明かされる意外な真相に到るまで、丁寧に作り込まれた印象である。
 切ない余韻も相まって、クリスマスには絶好の一冊。ぜひこのクリスマスにおすすめしたい。

 ちなみに著者のクリフォード・ウィッティングには他にも代表作と言われる作品があるので、まだまだ続刊を期待したいところ。『知られたくなかった男』の主人公格・ラサフォードが初登場するチャールトン警部シリーズ第一作『Murder in Blue』が個人的には特に気になっていて、出来自体は少し落ちるようだが、書店を経営するラサフォードとミステリマニアの店員のやりとりがかなり面白いらしい。


チャールズ・ディケンズ『探偵局』(湘南探偵倶楽部)

 チャールズ・ディケンズの『探偵局』を読む。湘南探偵倶楽部が復刻した短編で、もとは博文館が1930年に刊行した〈世界探偵小説全集〉第一巻『古典探偵小説集』に収録されていたものだ。

 探偵局

 英国を代表する作家ディケンズは、探偵小説テイストの作品を多く残したことでも知られている。多分それは長篇での印象がそうさせているのだろうが(実際、未完の長篇ミステリも書いたわけだし)、短篇も然り。岩波文庫の『ディケンズ短篇集』などは、そもそもミステリ要素の強いものを集めているそうで、ミステリファンが読んでも十分楽しめるらしいが、残念ながら管理人は未読である(笑)。まあ収録作のうち、いくつかは別の本で読んでいるので、この場はそれでご勘弁。近いうちに『ディケンズ短篇集』も片付ける予定である。

 で、「探偵局」もそんなミステリ要素の強い作品である、というか完全にミステリでしょう、これは。
 そもそも設定が奮っている。語り手は雑誌もしくは新聞社の記者。ロンドン警視庁がスコットランドヤード通りに庁舎を構えてから、より活躍するようになったのではということで、刑事たちに座談会形式でインタビューしたという設定なのである。
 ストーリーは座談会に出席した刑事たちが、それぞれ思い出の活躍を語るというスタイル。要は連作短編集みたいなもので、作品自体は一つの短篇ながら、お話としては五つのストーリーが楽しめる。
 さすがにミステリ夜明け前の作品なので高望みはできないけれど(ご都合主義の多さよ)、論理的に捜査を進めるという点に関してはきちんと筋を通しているところに注目。こういうところから警察の捜査が発展してきたのだなという理解の助けにはなり、そういう意味で捨てたものではない。ただ、中には容疑者の汚名をすすいで「ハイお終い」という話もあり、「犯人は放ったらかしかよ」と思わず心の中で叫んだ話もあったけれど(苦笑)。

『Re-Clam』 Vol.5

 ようやく『Re-Clam』のVol.5を読む。今号はロス・マクドナルド特集で、法月綸太郎氏、柿沼瑛子氏といったプロの作家や翻訳家の寄稿が楽しめる。同人誌であるにもかかわらずプロの執筆陣が参加していることはもちろん目を惹くけれども、個人的に気に入ったのは、「初心者のためのロスマクドナルド読書案内」。
 こちらでは、ロスマク入門一冊目として(内容だけでなく入手しやすさも考慮)、『象牙色の嘲笑』を挙げているのが、なかなかいい線をついていると思う。個人的にロスマク入門書をあげるなら『象牙色の嘲笑』にプラスして、『死体置場で会おう』と『ギャルトン事件』も推しておきたい。ただし、この二冊は入手難というだけでなく文庫にもなっていないのが困りもの。

 なお、次号は「ホームズのライヴァルたち」特集ということで、これまたナイス企画である。しかし、本来こういった企画は『ミステリマガジン』がやってほしいことなんだよなぁ。売れるものしか特集したくないのはわかるけれど、テレビドラマやアニメに頼ってばかりでは本当のミステリファンが離れるばかりではないか。別にマニア相手のクラシックミステリばかり特集しろと言っているわけではない。『ミステリマガジン』の本筋たる翻訳ミステリをもっと紹介してほしいだけなんだけどねえ。


ウィリアム・ル・キュー『完訳版 秘中の秘』(ヒラヤマ探偵文庫)

 かつて菊池幽芳が翻訳し、大阪毎日新聞に連載した作品『秘中の秘』。江戸川乱歩が子供の頃。毎日、母親に読み聞かせてもらっていたという作品でもある。
 ところが驚くべきことに、『秘中の秘』は作者、原作ともに長らく不明だったのだという。その正体が明らかになったのが、なん2019年のこと。ウィリアム・ル・キューが1903年に刊行された『The Tickencote Treasure』である。
 そして驚くことがもうひとつあって、原作が明らかになって数ヶ月もしないうちに、「ヒラヤマ探偵文庫」を運営する平山雄一氏がその完訳版を出したことだ。本日の読了本は、その『完訳版 秘中の秘』である。

 完訳版・秘中の秘

 まずはストーリー。
 医師のポール・ピッカリングは代診医として勤めた診療所の契約を終え、友人の老船長ジョブ・シールに誘われ、憧れだった船旅へ出発することになった。古く小さい貨物船だが、客人として乗り込み、気楽な旅を続けていたポール。
 そんなある日、船は幽霊船かと見間違えんほどの奇妙な船「タツノオトシゴ号」と遭遇する。この船は一度海中に沈んだ後、何らかの浮力によって再び浮上したものだった。さっそく内部を探索するシール船長一行だが、驚いたことに船内には一人の老人が生き残っており、さらには金貨の詰まった箱が発見される。しかもさらに莫大な財宝の存在を示唆する文書が発見された。
 やがて帰国したポールと船長は、財宝の在処を探そうと試みるが、彼らの行く手には不穏な者たちの姿が……。

 菊池幽芳訳の『秘中の秘』は論創ミステリ叢書『菊池幽芳探偵小説選』に収録されており、今では手軽に読むことができる。管理人も五年ほど前に読んでいるので、本来なら両作の比較研究など書きたいところだが、悲しいかな内容をほとんど忘れているので、今回は純粋に内容を楽しんだ(ちなみに両作の違いは本書の解説で紹介されている)。

 で、あらためて菊池版を心の中でリセットして読み始めたわけだが、これがなかなか面白い。いや、こんな面白かったっけ?というぐらい普通に楽しめるのである。
 1903年の作品なので、それはいろいろと古臭いところもあるけれど、とにかくサービス精神満点。ザクっといえば幽霊船騒動を軸とする冒険小説風の前半、宝物争奪戦を描くサスペンス風の後半となるのだが、ここに暗号などミステリ的仕掛けを加え、さらには恋愛や友情のサイドストーリーにも抜かりはなく、まったく飽きさせない。
 とはいえ菊池版は正直ここまで面白かった記憶がないので、やはりこの手の道具立てやキャラクターは、西洋という舞台の方がしっくりくるのではないだろうか。

香山滋『海洋冒険連続小説 孤島の花』(盛林堂ミステリアス文庫)

 香山滋のジュヴナイル『海洋冒険連続小説 孤島の花』を読む。盛林堂ミステリアス文庫の一冊で、三一書房の『香山滋全集』にも収録されなかった短編を収録したもの。

 孤島の花

「海洋冒険連続小説 孤島の花」
「眼球盗難事件」

 収録作は以上の二篇。「孤島の花」が冒険小説、「眼球盗難事件」は探偵小説という陣容である。これまで全集に収録されなかった理由は本書の「あとがききにかえて」に詳しいけれど、普通は作品が見つからなかった、存在が知られていなかったなどの理由がある。
 しかし本書収録の「眼球盗難事件」については、差別等の表現から収録を見送られたパターンではないかという。今では差別的とされる表現が含まれているのだが、「あとがきにかえて」では、こうした表現の問題に絡んで復刊が見送られるという事案はいかがなものかという問題提議もしており、非常に同感である。

 以下、簡単に感想を。
 「海洋冒険連続小説 孤島の花」は、戦時引き揚げ船が沈没して、無人島に漂着した少年・正夫君と少女の物語。無人島かと思っていたが、海賊船が略奪物の隠し場所として利用する島であることがわかり、二人の脱出口を描く。
 思ったほど主人公が活躍しないこともあるが、主人公・正夫君の、少女に対する感情や行動が不愉快で、これはいまひとつだった。

 「眼球盗難事件」は題名だけでも相当なインパクトだが、内容もまさにこのまんまで驚く。上でも書いた差別的表現の部分だけでなく、当時の戦災孤児の描写なども含めて、実はかなりヘビーな問題を孕んだ作品だ。これが子供向けに書かれた作品ということすら今では信じがたい。正直、書かれた当時より、いま読む方がはるかにその意味は重いのである。
 そう考えると本の価値(あくまで内容の価値)というものは時代とともに移り変わるものであって、それだけにその時々の政治や思想の都合だけで、作品を無かったことにするような真似は絶対にしてはならないのである。そんなことを改めて感じさせてくれた作品だった。

L・J・ビーストン『ビーストン傑作集』(創土社)

 『ビーストン傑作集』を読む。著者のL・J・ビーストンは1920〜30年代の英国で多くの作品を発表した短編作家。日本でも戦前に人気を集め、雑誌『新青年』ではもっとも多く作品が掲載された海外作家だ。
 まずは収録作。

「マイナスの夜光珠」
「悪漢ヴオルシヤム」
「過去の影」
「人間豹」
「五千ポンドの告白」
「約束の刻限」
「頓馬な悪漢」
「パイプ」
「緑色の部屋」
「決闘家クラブ」
「廃屋の一夜」
「クレッシングトン夫人の青玉」
「地球はガラス」
「マーレイ卿の客」
「地獄の深淵」
「幽霊階段」
「霧雨の夜の唄」
「犯罪の氷の道」

 ビーストン傑作集

 ビーストンの短編をまとめて読むのは初めてである。もちろん単品ではいくつか読んだことがあるので、その面白さは知ってはいたけれど、まとめて読むと作風がより明確に理解できた。
 といっても管理人が今さら付け加えるようなことはない。犯罪をベースにした物語、ハラハラドキドキの展開、爽快などんでん返し。この三つがほぼすべてだろう。あえて加えるなら、基本的に勧善懲悪なので非常に読後感もよいということぐらいか。まるで炭酸ジュースを飲んでいるかのような、適度な刺激と口当たりの良さがビーストンの魅力だろう。なるほど、人気があったのもむべなるかな。

 ただ、単品で読んでいるときにはあまり気にならなかったが、こうやってまとめて読むと、同時に弱点も浮かび上がる。同じような作品ばかりで、実に飽きやすいのである(笑)。
 「同じような作品」といっても二つのポイントがあって、一つはどの作品でも必ずといっていいほど、どんでん返しがあること。その結果、慣れてくるとすぐにオチが読めてしまう。論理的に導かれるような驚きではなく、単純にストーリーの流れから予想されるのが弱いところだ。
 二つ目としては、設定やストーリーも似たような話が多いということ。そういう要望ばかり雑誌の編集から出たせいなのか、それとも単に作者自身のネタの引き出しが少なかったのか、理由は判然としないけれども。
 とはいえ、とにかく読者を驚かせたいのだという気持ちは十分に伝わってくるし、作品は実際面白いものばかりである。今読んでも決して退屈はしないだろう。

 ちなみに、一昔前はこの創土社版の古書ぐらいしかでしか読めなかったビーストンだけれど(しかもそこそこ高価)、今なら論創海外ミステリでも出ているので、気になる人はまずそちらで試してみてはいかがだろう。
 何より一番いいのは本書が文庫化されることだろうが、同じ創土社のルヴェルが創元で文庫化されているので、創元さんはぜひご検討を。



ミステリベストテン比較2021年度版

 今年も各ミステリのランキングが出揃ったようなので、三誌の平均順位などを出してみた。なお、これも毎年、書いていることだが、管理人の好みで海外部門しかやっていないので念のため。
 以下、基本ルール。

・『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」(以下「ミスマガ」)、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」(以下、「文春」)、宝島社の『このミステリがすごい!』(以下、「このミス」)の各ランキング20位までを対象に平均順位を出し、それを元にしたランキングとする
・原書房の『本格ミステリ・ベスト10』はジャンルが本格のみなので対象外としている。
・いち媒体にしかランクインしていない作品はブレが大きくなるため除き、参考として記載した。

2021年度ランキング比較_2

 ランキング自体のあり方については、こちらの記事で書いたり、Twitterでも少し呟いたりしたせいか、そこそこガス抜きができてしまったので(笑)、本日は純粋に作品を見てみたい。
 といっても今年は例年以上に各ランキングが似通ってしまい、本当にやばいことになっている。ここまで似てくると発売日の遅いランキングは誰も見なくなるだろうし、「このミス」が投票期日の〆切を今年から変えるのは、おそらくそれが理由ではないかと邪推している(笑)。

 それにしてもアンソニー・ホロヴィッツは強い。これで三冠三連覇。正直、今年は作品の水準、対抗馬の強さを考えると、どう贔屓目に見ても無理だろうとは思っていたのだが。まあ、これは複数冊を投票できるシステムのせいが大きいとは思うけれど、いや、それにしても。
 ホロヴィッツの三連覇した作品は、どれもミステリのもっとも古典的かつ基本的なスタイルである本格だ。謎を解く楽しさをきちんと中心に据えところがまず魅力であり(しかもきちんと現代風にアレンジして)、加えてキャラクターの魅力、メタミステリーな全体の仕掛けをわかりやすく取り込んでいるところなどが評価される理由だろう。
 早い話、総合力が高い。作品全体に目配りが効いている。弱点が極めて少なく、それがまんべんなく票を集めたことにつながったと言える。

 これに対抗するには、いわゆる超二流、超B級では難しいのかもしれない。知的興奮と娯楽性、大人も楽しめるストーリーの奥行き、少なくともそれらは満たしていないと、なかなか牙城は崩せないと見る。
 ただ、当然ホロヴィッツも飽きられる可能性は十分にあるわけで、来年以降はさすがにこう簡単にはいかないだろう(実は今年も絶対、無理だと思っていたのに三冠だから嫌になる)。
 今年でいえば、管理人の予想では『指差す標識の事例』や『あの本は読まれているか』がくると思っていた。前者は翻訳者四人を擁した話題性、1000ページもあるボリューム、歴史ものという知的興味をくすぐるジャンル性など、対抗馬としては圧倒的な存在感だ。後者も歴史もので、かつテーマが秀逸、穴馬の可能性も十分だったはず。
 ところが蓋を開ければ両者ともザリガニにも抜かれる始末。まあ、どちらも肝心のミステリ的な部分が弱かったのがやはり響いたかなとは思うが、これで勝てないとなると来年はどうなることやら。

 あと、ホロヴィッツも強いが創元も強い。ホロヴィッツ以外に先ほどの『指差す〜』や『あの本は〜』をはじめ二十位内に六冊もランクインしている。一誌飲みのランクインでも二冊入っている。早川書房もランクインした数自体は匹敵しているが、上位に来る作品がやや弱い。それでも今年は『ザリガニの鳴くところ』で救われたが、むしろ『死亡通知書 暗黒者』が伸びきらなかったのが惜しい。というか、なんでハヤカワミステリなのに「ミステリが読みたい!」でランクインしなかったのか(笑)。
 版元でいうなら、地味な作品が多いせいか上位にはなかなか上がってこないけれど、この数年の集英社文庫と小学館文庫はいい作品を出し続けているイメージ。集英社はフランスミステリ、小学館は警察ものが多い印象だけれど、管理人もあまり読めてないので、来年の宿題か。

 宿題というほどでもないが、年末年始あたりで読んでみたいのは、まず『ザリガニの鳴くところ』。あとは『言語の七番目の機能』、『パリのアパルトメン』あたりか。ただ、昨年もそんなことを書いておいてまだ読んでないものもあるしなぁ。とりあえずハードカバーの新刊だけは早く読むことにしたい。文庫オチするとショックだし(笑)。

J・S・フレッチャー『ミドル・テンプルの殺人』(論創海外ミステリ)

 久々に所沢の古本市「彩の国所沢古本まつり」へ出かけてみた。もともと規模が大きいのでコロナ以前から全然密な状態ではないのだが、入り口で漏れなく消毒と検温がちゃんとされているし、通路も広いので安心感は高い。なんせ来場者の平均年齢が高いから(運営者も)、これぐらいは当たり前なのかもしれない。
 ちなみに釣果はそれほどのことはなくて『ディケンズ短篇集』、南洋一郎『魔海の宝』、フランク・グルーバー『グルーバー 殺しの名曲5連弾』、『エラリー・クイーン傑作集』、海渡英佑『積木の壁』など。

 本日の読了本はJ・S・フレッチャーの『ミドル・テンプルの殺人』。論創海外ミステリの一冊である。
 フレッチャーはミステリ黄金時代の初期に大いに活躍したが、如何せん流行作家の宿命か、今ではほぼ忘れられた作家の一人である。管理人も以前に『亡者の金』を読んだことはあるが、やはり厳しいかなという感じであった。
 しかし、『ミドル・テンプルの殺人』は代表作の一つとして数えられるだけあり、そこそこ楽しく読むことができた。

 ミドル・テンプルの殺人

 ウォッチマン新聞社で副編集長を務めるフランク・スパルゴ。今日も担当するコラムを仕上げ、早朝近くに会社を退社したところ、ある男の殺害事件に遭遇する。身元不明だった被害者だが、ポケットからはある弁護士の名前が記された紙切れが発見された。それはスパルゴも知っている弁護士だったが、いざ会って話を聞くと、その弁護士は被害者のことは知らないという。徐々に興味が増してきたたスパルゴは、担当のラスベリ-部長刑事と協力して捜査を進めるが……。

 やはり謎解き興味は薄いけれど、『亡者の金』よりはだいぶ面白い。もちろん全般的な傾向は『亡者の金』とそれほど変わらないし、古臭いところは当然あるのだが(1919年の作だからなんとクリスティのデビュー前!)、ストーリーがかなり強くて、いくつかの弱点を全部うっちゃってるイメージ。
 序盤は五里霧中からスタートするが、新しい情報や手がかりがテンポよく出てきて、見事に物語を引っ張ってゆく。展開が早くなりすぎていて、普通の本格ミステリならやりすぎかなと思うのだが、このさじ加減が絶妙でというか、著者の撒き餌にうまく乗せられていく感じが心地よい。
 謎を追う探偵役のスパルゴも、こういうスピーディーな展開にちょうどいいキャラクターだ。推理や試行錯誤にはあまり時間をかけず、むしろ足で捜査を進めるタイプ。ただ、そうはいっても決してクロフツとかと同類ではなく、むしろアメリカの古いサスペンス映画とかに登場しそうなはじけた若手記者といった感じである。

 決して心に残るような作品とは違うが、読んでいる間は十分に楽しめる、娯楽に徹した一作である。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2021年版』(宝島社)

 昨日の記事でミステリの年末ベストテンについてグダグダ描いてみたけれど、本日は大トリである、このミスこと『このミステリーがすごい!2021年版』が発売されていたので、さっそく買ってみた。

このミステリーがすごい!2021年版

 ランキングについては、嫌な予感が見事に的中して、『その裁きは死』が怒涛の三連覇。文春ベスト10の権威主義的なところが嫌だと言って新たなベストテンを提唱したこのミスだが、この結果をどう見ているのかな。下位は多少の個性も見られるが、そんなものは当たり前で、上位で差別化しないでどうする。

 それでもランキングは一応、投票の結果だから仕方ない面はあるけれど(本当は仕方なくないのだけれど)、企画記事がほぼないという構成はさすがにどうなんだろう。
 唯一の企画が『名探偵コナン』なのだけれど、そんなものをわざわざ年イチのミステリランキング本でやるかね。ぶっちゃけコナンのファン層に頼っているだけではないか。ミステリ小説のランキング本なのだから、少しはランキングに入った作家に誌面を割いたらどうか。ミステリ愛すら欠如しているようで、このミスもいよいよその役目を終えようとしているのかもしれない。


ベストテンの季節がやってきた

文春&ミスマガ2020ベストテン

 今年も残り一ヶ月を切ってしまって、ミステリ界隈では年末ベストテンの季節到来である。すでに『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」と『週刊文春』の「ミステリーベスト10」が発表され、なんと両ランキングの海外部門でアンソニー・ホロヴィッツの『その裁きは死』が1位を獲得してしまった。しかもホロヴィッツは三連覇達成である。
 この調子では、もうすぐ出るはずの(もう出てるかな)『このミステリーがすごい!』もおそらくトップは堅そうな気配で、なんだかなぁという感じである。

 いや、いいんですよ。面白い作品であれば福岡ソフトバンクホークスみたいに四連覇しちゃっても。実際、ホロヴィッツの作品だってつまらないわけじゃなく、作品としてちゃんと面白い。ただ、正直、前の二作よりは明らかに落ちるし、当然、評価は少し下がっていいはずだ。ところが蓋を開ければ堂々のV3。ランキングは相対的なものだから、他の作品がそれ以下の出来であれば仕方ないけれど、対抗馬だっていろいろ出ているからね。

 このあたりについては、当ブログでも毎年のように書いているのだが、結局、各ミステリベストテンの選考方法がアバウトすぎて、そこがどうも素直に楽しめない原因になっている。
 気になるところはいくつかあるのだが、やはり一番問題なのは、投票者がその年の新作ミステリをどれだけ読んで投票したかということだろう。全部読んで、そのうえでランキング投票していればいもちろん問題はない。しかし、本当に素晴らしい作品なのに、知名度がなかったり、刊行が投票〆切日に近いため読むのが間に合わなかったりで、いい作品を未読のまま投票している可能性がずいぶん高いのではないか。
 ミステリ評論家や書評家なら、かなりの範囲、かなりの冊数を消化していると信じたいが、それだって怪しい。ましてや業界関係者以外が自分の好みとは異なるジャンルを含め、新刊ばかり何十冊も読んでいるとはとても思えない。
 だから結局はメジャーな作家、宣伝しまくった作品、インターネットで評判になった作品ばかりが読まれることになり、自ずと票も集めてしまう。

 思えばこういう状況は、かつての『週刊文春』の「ミステリーベスト10」で顕著だった(まあ、文春は今でもだけど)。当時は今みたいにインターネットが普及していなかったから、サイトやSNSで情報を集めることが難しかった。ハズレを掴むリスクはを避けたいので、おのずとメジャーな作家の作品、出版社が宣伝に力を入れた作品ばかりに注目してしまい、そのなかからランキングが生まれてきたといっても過言ではない。
 まあ今となっては、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」の権威主義的なところはお家芸のようにもなっており、むしろメジャーが有利なベスト10ということで特化している感すらあるので、それはそれでいいかもしれない(苦笑)。そういう観点で割り切ってランキングを眺めればよいわけである。
 ただ、文春のアンチテーゼとして誕生した宝島社の『このミステリーがすごい!』と最後発の『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」まで、同じような状況になっては駄目でしょう。
 この両誌は投票者の個人ランキングも晒しているから、まだ良心的ではあるが、惜しむらくは何と比べたうえでのランキングか知りたいわけである。
 極端なことをいうと、10冊しか読んでない人が投票したら、どんな駄作でもランキング入りする羽目になってしまうではないか。

 とはいえ、その年の新刊すべてを読んだ人しか投票してはいけない、なんてことは現実的に無理なのもわかる。
 ではどうすべきか。一番、無理がないのは、投票者に公平に判断してもらうため、30作ぐらいをノミネートして、そのノミネート作品を最終審査員が全作読んだうえで投票する形である。
 ノミネートする作品はそれこそ人海戦術で多くの読み手に参加してもらい、第一次審査的な形にする。もちろん漏れが出てはいけないから、一作につき最低二〜三人は読むようにしたい。一次審査する数が多いので、かなりコストがかかる欠点はあるけれど。
 また、最終審査については、投票だけでなく、完全合議制にするのも面白い。早い話が、文学賞の選考スタイルである。こちらであれば、最終審査員の人数はかなり絞ることも可能だろう。というか、絞らないと収拾がつかなくなる危険大だろう。

 あと、別の話にはなるが、どうせやるならベストテンをやっている出版社が共同で開催するのはどうか(共同開催が大変なら、持ち回り制という手もある)。
 そもそもランキングの数が多すぎる。本ミスも入れると4種類だし、ほかにもネットでファンが開催しているものなどもあるわけで、これではボクシングやプロレス並にタイトルが多いではないか。そこで一本に絞るわけである。
 あ、別に絞らなくても、各ランキングの一位の本を担当した編集者が集まって、最後にビブリオバトル形式でチャンピオンを決める手もあるな(笑)。

 まあ、グダグダと書いてみたが、せっかくのお祭りなので、もう少しスッキリ楽しめるほうがいいし、もっと盛り上げる工夫はあったほうがいいよなぁ、というお話。



ルーファス・キング『緯度殺人事件』(論創海外ミステリ)

 ルーファス・キングの『緯度殺人事件』を読む。
 著者はアメリカの本格黄金時代の作家の一人。しかし、我が国での知名度はいまひとつで、多くの作品が未訳のまま残されている。創元推理文庫で出た長篇『不変の神の事件』、短篇集『不思議の国の悪意』は十分に面白かったし、湘南探偵倶楽部が『新青年』掲載時のものを復刻した『深海の殺人』も抄訳ながら、けっこう楽しめたのだが、どうにも人気が弾けないのは残念だ。
 一応は本格系の作家ながら、著者の強みはどちらかというとサスペンス部分にあるので、それがメイン読者である本格ファンには響かなかったのかもしれない。いや、面白ければどちらでもいいと思うのだが。

 緯度殺人事件

 こんな話。十一人の乗客を乗せ、カナダへ向かって出航した貨客船〈イースタン・ベイ号〉。その乗客のなかにはニューヨーク市警のヴァルクール警部補の姿があった。実はニューヨークで起きた殺人事件の犯人を追って乗船してきたのだ。しかも、犯人は、ある乗客を狙って〈イースタン・ベイ号〉に乗り込んだ可能性が高い。
 捜査を進めるヴァルクール警部補だったが、その矢先に無線通信士が殺害されてしまう……。

 船上の閉ざされた空間で、限られた人間の中から犯人を見つけ出すという一席。本格というスタイルはとりつつも、実質はサスペンス風味がだいぶ勝っている印象だ。
 しかし、それはそれで十分に面白い。ときどき挿入される犯人視点のシーン、意外な動機の発覚、謎の連続盗難事件、全員が揃ってのアリバイ探しなど、いいテンポで興味もつないでいくし、とにかく設定やストーリーの作り方が巧い作家である。
 とりわけ感心したのは、中盤から挿入されるニューヨーク市警の電報と、見出しの仕掛け。こういうサスペンスはなかなか例がなく、さすが実際に船舶で無線通信士を経験した著者ならではの企みだろう。
 また、被害者候補の女性をはじめとした数人の主要人物もそぞれクセのあるキャラクターで、これもストーリーを盛り上げるのに大いに役立っている。

 惜しむらくは、やはり謎解き志向があまり強くないところだろう。推理はもちろんあるにせよ、ロジックで徹底的に詰めていくわけではなく、ざくっとした印象は否めない。犯人の正体に迫る部分などはいい展開だと思うので、ちょっともったいない感じだ。

 というところで惜しいところはあるけれども、ストーリーや仕掛けの巧さで十分にお釣りはくる。ガチガチの本格を望まないかぎり、決して失望することはないだろう。
 ともかく未訳がたっぷり残っている現状はあまりにもったいない。ぜひ今後も紹介を続けてもらいたいものだ。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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