ポール・アルテの『殺人七不思議』を読む。版元を行舟文化に移しての三冊目で、美術評論家のオーウェン・バーンズ・シリーズの一冊である。
ちなみに過去、行舟文化から出たアルテのオーウェン・バーンズものは、一冊目がシリーズ四作目の『あやかしの裏通り』で2005年の作、二冊目『金時計』はシリーズ七作目で2019年の作、そして三冊目の本作はシリーズ二作目で1997年の作となっている。
見事なまでにランダムだが、これは何か理由があるのだろうか。こういう場合、普通はファンを獲得できるよう面白いものから出していることが多いのだけれど、ここまでランダムなのも逆に珍しい。アルテを復活させてくれたのはありがたいが、欲を言えば発表順で全作を読みたいものである。
それはともかく。まずは本作のストーリーから紹介してみよう。
世間を騒がせる不可能犯罪が立て続けに発生した。ひとつは誰もが侵入した形跡のない灯台で、灯台守の男が焼死した事件。もうひとつは友人たちとアーチェリーの練習中に、誰もいないはずの草地で矢を撃たれて死んだ男の事件である。どちらの事件にも犯行を予告する油絵が警察へ届いていたため、二つの事件の犯人は同一人物だと思われた。
やがて三つ目の事件が発生するに及び、ロンドン警視庁のウェデキンド警部がオーウェン・バーンズに助力を申し出る。バーンズはこれらの殺人が、美を追求する者の仕業ではないかと考えるが、そこへ一連の事件の犯人を知っているという男が現れた……。

『金時計』が相当ぶっ飛んだ一作だったけれど、本作『殺人七不思議』もかなりの異色作。そもそもタイトルからしてけっこう地雷臭を感じさせるだけに、読む前はちょっと警戒していたのだ。しかし、いざ読み始めると不可能犯罪のオンパレードであり、“殺人七不思議”という胡散臭いフレーズも、文字どおり“世界七不思議”をなぞったものであることがわかり、これはアルテ先生大きく出たぞと嬉しくなり、一気に引き込まれる。
ところがそれも束の間。世間を驚愕させるほどの予告殺人+見立て殺人+不可能犯罪+連続殺人というスペシャルな事件なのに、物語の広がりがまったくなく、ある一家の恋愛にまつわるトラブルに収束してゆく。加えて七つの不可能犯罪の謎解きもまるで推理クイズのように片付けられ、しかもそのトリックも無理やりだったり、イージーすぎる始末。とにかく拍子抜けの感が強い。
ラストの犯人像や事件全体の構図についても、狙い自体は実はかなり面白いと思うのだが。もったいないことに著者はこれらに対しても深堀りするわけではない。
とにかくすべてをさらっと流し過ぎなのだろう。さまざまな要素があり、多くの可能性を秘めているはずの作品なのに、どの要素にも注力がされておらず、終わってみればなんだか梗概を読まされている感じの一冊だった。次作での挽回に期待したい。