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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 01 2021

連城三紀彦『敗北への凱旋』(ハルキ文庫)

 連城三紀彦の『敗北への凱旋』を読む。なんでも来月、創元推理文庫で本作が復刊されるということで、手持ちのものを掘り出してみた次第。作品自体初期の代表作といわれているので、いいきっかけを作ってもらった感じである。

 こんな話。戦後まもない頃のクリスマスイブ。痴情のもつれか、安宿で隻腕の男が女に射殺されるという事件が起こる。容疑社は中国人女性の玲蘭。彼女は男の情婦をも殺し、自分も海へ身を投げてしまう……。
 それから二十年以上が過ぎた。作家の柚木桂作は、優れた才能をもちながら戦争に身を投じ、最後は不遇の死を遂げたピアニスト・寺田武史をモデルに小説に描こうとするが……。

 敗北への凱旋

 抒情性とトリッキーさが融合した、いかにも連城三紀彦らしい一作。
 基本的には、戦後に殺された寺田武史という人物の生涯を、当時の関係者からの聞き取りや残された遺品などをもとに解明するという展開であり、しかも、謎の中心となるのは寺田が残したと思われる暗号である。ストーリーとしてはかなり地味な部類に入るだろう。
 しかし、冒頭の太平洋戦争の終戦日の情景——真紅の夾竹桃が雨のように降って来るというシーン、さらにはそこから数年後の売春地区で起こったある殺人事件という流れはかなり印象的で、上に挙げた謎への興味を十分に持続させてくれるのが、連城三紀彦ならではの語りの巧さだ。
 そして物語で提示される情報の数々が、一体何を意味していたのか、どんでん返しも含めて明らかになるラストにはかなり驚かされる。それはトリック云々もあるけれど、どちらかといえば事件の背後にあった様々な背景、なぜこのような事件が起こったのかという事情によるもので、それが本作の読後感をより深いものにしている。
 大作という感じではないが、著者の特長が存分に発揮された佳品といえるだろう。

 惜しいのは、本作の大きなアイデアの一つが、過去に前例のあることだろう。有名なネタなのでトリックにこだわるような読者はどうしても「二番煎じ」であることが気になるだろう。とはいえ本作の設定やそれまでの流れで一気に持っていっているところもあり、個人的には残念というほどではなく、むしろ普通に驚かされたし、楽しめた。
 あと、本作の欠点としてよく言われることだが、暗号の難易度の高さがある。こちらは確かに素人にはまず解読不可能なレベルで、管理人もそこは諦めて斜め読みで済ませてしまった(苦笑)。

 ちなみに創元推理文庫で復刊される予定の本作だが、管理人の読んだ本も以前にハルキ文庫から復刊されたもので、他にも講談社ノベルス版、講談社文庫版などで刊行されている。
 良作だからこんなに復刊されるのだろうし、それはいいことなのだが、これは裏を返せば出すたびにすぐ品切れや絶版になるということだから、気持ちとしては複雑だよなぁ。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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