ポケミスの復刊フェアに入ったこともあるなど、作品の質はけっこう高いはずだが、その割にはあまりベスト企画などには入らない。言ってみれば知る人ぞ知る、といった位置付けになるのだろうか。本日の読了本はトマス・スターリングの『一日の悪』。

なるほど。これは悪くない作品だ。
ポケミスで僅か二百ページあまり(活字は小さいけれど)、登場人物は僅か六人というコンパクトな作品だが、財産贈与をめぐっての駆け引きが非常にスリリングで面白い。
直接、贈与に絡むのは富豪のセシルと贈与対象者の三人。揃いも揃って胡散臭い連中ではあるから、彼らのやりとりに引き込まれるのは当然としても、これにセシルの秘書ウイリアムと贈与対象者の女性に雇用されている若い女性シリアが、ストーリー上思いがけないポジションを担うことになり、実にいいアクセントになっている。
とりわけウイリアムは彼ら以上に胡散臭く、自分も財産贈与の分け前に預かろうと画策するのだが、それに収まらない活躍も見せて楽しい。
こんな状況で著者は殺人ま事件まで発生させるのだけれども、さすがに大筋は読めるだろうと思いきや、ラストで明かされる真相には見事にしてやられる。登場人物が少ないので犯人ぐらいはまぐれでも当てられるだろうが、動機や事件の構図まで見抜くのはさすがにに難しい。
シンプルだけれど練りに練った設定・プロット。これはもっと読まれてもいい作品だろう。