復活したROM叢書が昨年末に刊行したうちの一冊、J・B・ハリス-バーランドの『古本屋サロウビイの事件簿 ハリス-バーランド短編集』を読む。まずは収録作。
【古本屋サロウビイの事件簿】
The Man with the Brown Eyes「茶色の目の男」
The Cipher「暗号」
Lot 109「競売品一〇九番」
The Man with the Brown Beard「茶色い顎髭の男」
The Grolier Binding「グロリエ装丁」
The Brython Library「ブライソン蔵書」
【ノンシリーズ】
The Yellow Box「黄色い箱」
Lord Beden’s Motor「ロード・ビーデンの自動車」
The Ring「指輪」

以上のように、古本屋サロウビイを主人公にしたシリーズもの六作と非シリーズの怪奇小説三作という構成。
古書店を営むマシュー・サロウビイは、時代的にギリギリホームズのライヴァルたちというポジションのようだが、作品を読むとそこまで著者がホームズを意識していたかどうかは怪しいところだ。
というのもミステリではあるが、主人公サロウビイはあくまで古書店の主人。別に素人探偵を気取っているわけではなく、たまたま古書に関係する事件に巻き込まれるに過ぎない。したがって、ときにはサロウビイが閃きを見せて事件を解決することもあるけれど、またあるときは被害者として終始することもある。
これがシリーズ探偵の新しいスタイルを模索してのことなのか、それとも単に古書をベースにした犯罪小説もしくはキャラクター小説的に読ませたかったのかは判断が難しいが、ロジックやトリックにそこまで重きは置いていないようなので、おそらく後者だろう。
ただし、それが悪いというわけではなく、読み物としてはこれがなかなか面白い。
サロウビイは必ずしも探偵として機能するわけではないので、物語がどう転ぶか予測しにくいというのもあるし、設定もかなり魅力的。もちろん当時の古書業界の蘊蓄も多い。比較的、出来のムラも少ないが、しいていえば「茶色の目の男」、「グロリエ装丁」、「ブライソン蔵書」あたりが好み。
ノンシリーズの怪奇小説では「黄色い箱」がいい。遺産を相続した青年だが、その条件として十年間、黄色い箱を保管しなければならない。ただし、箱を開けてはならず、必ず屋敷に置き、長期外出は許されない。最初は簡単なことだと思った青年だが……。センスが光る一編。