Twitterで少し呟いたが、『うつし世の三重 江戸川乱歩三重県随筆集』という本を購入した。昨年発売されていたのにまったく気づかなかった乱歩の随筆集で、たまたま西荻窪の書店で見かけ、驚いて即レジへ持っていった次第。

中身はというと、乱歩が生誕地・三重県について言及した文章を集めたもので、初めて活字化された文章もあるという。
ただし、家族や故郷、生活などについての随筆がメインだから、探偵小説についての言及は少なく、また、同じような内容の文章も少なくないので、あまりミステリ的興味を期待してはいけない。乱歩が残したさまざまな断片を繰り返し読んでいくことで、乱歩の人となり、生涯を理解し、味わう一冊と言えるだろう。あくまで愛好家やマニア、研究者向けといった印象である。
しかしながら、乱歩の随筆を読んでいつも思うのは、本当に自分語りが好きだなぁということ。ここまで自分のことを書き記した作家はなかなか見当たらない。その経歴や立場から、他の作家に比べれば発表する媒体や機会は多かったのだろうが、それにしても数が桁外れに多い。それも例えば私小説のように自らをテーマにしたいという感じではなく、自分が接したもの、触れたもの、そのすべてを自分のために残しておきたいという感じである。乱歩はそれをもって、自分が生きている証としたかったのだろうか。
さて、本の内容とは少し外れるが、本書の存在を発売当時に見逃した原因がなんとなくわかったので記しておく。まあ管理人が情弱だっただけのことで、皆様すでにお買い上げなのかもしれないけれど(笑)。
そもそも本書はISBNコードがなく、一般の書店では流通していないのである。版元も出版社ではなく、伊賀文学振興会という、どうやら三重県伊賀市の市民団体である。
ホームページでもあれば話は早いのだが、いかんせん伊賀文学振興会の正式なホームページは見当たらず(本書の簡易的な通販ページのみ確認)、ネットで断片的な記事を拾い集めた結果わかったのが、「地元ゆかりの小説家・横光利一の顕彰行事の実行委員会を母体として2019年に発足した、伊賀地域の文学振興を進める団体」ということ。地元の文芸関係者が市に働きかけて設立した、伊賀地域の文学振興を進める有志の団体なのだ。
とはいえ基本は市民有志による活動である。セミナーや講演などはなんとかなるだろうが、活動二年目にして乱歩の随筆集とは大したものだ。と思っていたら、これにもタネがあって、編集を乱歩研究で知られる、あの中相作氏が担当している。ここから先は想像だが、中相作氏が伊賀文学振興会に所属されているか、あるいは働きかけて実現にこぎつけた一冊ではないだろうか。
ただ、惜しむらくは、当時のネットニュースやTwitterでは多少取りあげられたようだが、積極的な宣伝はほぼしていないようなのだ。
そもそも限定1000部であり、基本的には三重県内のいくつかの書店でしか発売しておらず、あとは事務局のホームページからの通販だけなのである。もちろん広告など望むべくもない。そりゃあ気がつかないわけだ。
それが発売後半年以上経ってから、管理人がたまたま入った書店で買えたのはラッキーとしか言いようがない。なんとその書店は、本書を取り扱う東京で唯一の書店だったからである。正直、奇跡のような出会いである(笑)。
そんな状況なので、今でももしかすると管理人のように本書の存在を知らない人もいるかもしれない。限定1000部とはいえ、まだ通販ページがあるからには在庫もまだあるのだろう。これはちょっともったいないかもということで、気になる方はぜひ問い合わせしてみてはどうだろう。
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伊賀文学振興会出版事務局
https://www.ueno-pri.co.jp/igabun/igabun2020.html