マイクル・コナリーの『素晴らしき世界』読了。ハリー・ボッシュと
『レイトショー』の主人公・夜勤専門の女性刑事レネイ・バラードが競演する一作。

麻薬中毒者エリザベスの娘が殺害された事件を、協力して追うことになったボッシュとバラード。その一方で、ボッシュとバラードが個々で抱える事件も同時に描かれる。
まあ、常套手段ではあるが、それぞれの事件がメインの事件に影響を与え、その中でボッシュとバラードの生き様が浮かびあがって、読者が没入できるという寸法だ。もちろん、それは悪いことでも何でもなく、むしろ個々の単独作品では主人公の一方的な見方しかなかったところに、別の主人公の視点が入ることで、それまでとは少し違った価値観を感じられて面白い。
ちょっと興味深いのはボッシュとバラードの関係性だろう。
これまでのボッシュと他の主人公の競演作は、どちらかというとキャラクターの対比という部分が目立ったのだが、ボッシュとバラードはどちらかというと似たもの同士。年齢差も考えると、今後はボッシュとバラードの師弟関係というふうに進んでいく気がする。
ただ、それはボッシュの“老い”が大きく影響している(体力面だけでなく、メンタルも)だけに、あまり喜んでもいられないのだが(苦笑)。
というわけで、本作はシリーズの節目となる作品である。そういう意味ではコナリーのファンは必読と言っていいのだが、ミステリとしての仕掛けはほぼないので、そこはあまり期待しない方がよい。ハードルを上げすぎなければ本作も十分に楽しめる一作である。