「刑事コロンボ」シリーズの脚本とプロデューサーを務めた名コンビ、リチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクによる短編集『レヴィンソン&リンク劇場 皮肉な終幕』を読む。まずは収録作。
Whistle While You Work「口笛吹いて働こう」
Child’s Play「子どもの戯れ」
Shooting Script「夢で殺しましょう」
Robbery, Robbery, Robbery「強盗/強盗/強盗」
One Bad Winter Day「ある寒い冬の日に」
Ghost Story「幽霊の物語」
The Joan Club「ジョーン・クラブ」
Dear Corpus Delicti「愛しい死体」
Who is Jessica?「ジェシカって誰?」
Exit Line「最後の台詞」

「刑事コロンボ」や映画『殺しのリハーサル』をはじめとした作品を観た人ならご存知のとおり、レヴィンソンとリンクのコンビはミステリの愉しみ方を熟知している人間である。要するにセンスがある。これをすれば視聴者が驚く、こう見せれば視聴者が喜ぶ、そういった感覚に優れているのである。
そうはいっても、もちろん「刑事コロンボ」にだって、トリックがしょぼいとか、理屈がおかしいとか、作品によって駄作もあるのだが、そんな作品であっても見終わって「つまらなかった」となることはほぼない。万人向け、というとミステリ的にはちょっとマイナスイメージもあるかもしれないが、彼らの作品はテレビという媒体の性質上、最大公約数の愉しみを目指していたはず。その結果、トータルでの満足度が非常に高いのである。
そんな作者が書いたミステリ、つまらないわけがない。本書の作品は彼らがまだ「刑事コロンボ」でブレイクする以前に書いていたものなので、若干不安もないではなかったが、十分楽しい一冊だった。
全体の印象としては、オチであっと言わせるスリラー的な作品、ライトな雰囲気の作品が多いことが挙げられる。そして何より犯罪者を主人公にした倒叙のパターンが多いことに要注目。「口笛吹いて働こう」、「強盗/強盗/強盗」、「愛しい死体」などが典型で、これらの作品がコロンボに繋がったのかなと思ったが、当たらずとも遠からじで、解説によると「愛しい死体」はまさにコロンボのきっかけになった作品だという。確かに主人公が自宅に帰ったところで、待っていたのがコロンボだったら、とついつい想像してしまう。
他の気になる作品としては、ミステリ味は薄いけれど、自信を無くした保安官の緊張感がたまらない「ある寒い冬の日に」。夫の浮気を疑う女性の心理を描いた「ジェシカって誰?」はよくあるパターンではあるが扱い方がうまい。
テレビ業界、芸能界を扱った作品「夢で殺しましょう」、「最後の台詞」はブラックな味わいが強く、これは二人の経験が元になっているのだろう。ストレスをそのままぶつけているような内容には、二人も苦労していたのだろうなと苦笑するしかない。