『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」(以下「ミスマガ」)、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」(以下、「文春」)、宝島社の『このミステリがすごい!』(以下、「このミス」)が出揃ったので、今年も三つの平均順位を出してみた。基本ルールはこんなところである。
・各ランキング20位までを対象に平均順位を出したもの
・管理人の好みで海外部門のみ実施
・原書房の『本格ミステリ・ベスト10』はジャンルが本格のみなので対象外としている
・いち媒体のみのランクインはブレが大きくなるため除き、参考として記載した

今年は三年振りに三冠独占はならなかったものの、それでもホロヴィッツの
『ヨルガオ殺人事件』は強かった。もちろん面白い作品だし、個人的にも昨年の『その裁きは死』よりも良い作品だとは思うのだが、やはり同じ作家の同傾向の作品が四年も続くのはなあ、という気持ちになってしまうのだ。
他の作品がだらしないというのなら仕方ないけれど、今年も昨年同様、ライバルとなりうり作品がけっこう多かっただけにちょっと予想外だった。凝った仕掛けではあるが、万人に受け入れられやすいサプライズと親しみやすさ、それが多くの投票者からまんべんなく得票を集めているのだろう。
昨年も少し書いたのだが、ホロヴィッツの作品がそもそも特殊であり、それでいて高い娯楽性を備えているため、単なる超B級作品あたりでは難しいかもしれない。この牙城を崩すとしたら強烈な知的興奮かつヒューマンドラマによる感動を与えてくれる大作が必要かもしれない。例えば『薔薇の名前』のような。
今年でいえば、まあ自分の読んだ範囲ではあるが、
『父を撃った12の銃弾』、
『悪童たち』、
『第八の探偵』、
『狼たちの城』あたりが勝てる可能性を持った作品だと思っていたが(自分の評価や好みではなく、あくまでランキング予想として)、それらを差し置いてトップの一角に食い込んだのが
『自由研究には向かない殺人』というのは意外だった。これ、自分も大好きな作品で個人的にもこちらを上位に推したい作品だが、ミステリ部分の弱さがあるので、ランキング争いでは不利かなと予想していたのだ。
ちなみに『自由研究には向かない殺人』もボリュームは相当ながら、それを気にさせないキャラクターと語り口があり、それが万人に受けた印象がある。もしかすると、ミステリの世界も世の中の流れにのって、傷つきにくい優しい作品が求められているのかもしれない。
あと、アジア圏の作品が増えてきたのをあらためて実感したランキングでもあった。アジア圏といってもほぼ華文ミステリだし、そもそも優れた作品しか紹介されていないはずなので、レベルが高いのは当然でもある。もちろん全体でみればまだまだだろうが、既成のミステリにないアイデアを備えた作品が多いのが魅力であり、トップクラスの作品は間違いなく欧米に比べても遜色がない。この波がアジア全体に広がると、また違った魅力がミステリに加わるような気がする。
ところでランキングの上位はいつも似たようなものだが、下位はけっこうランキングによって特徴が出る……と思っていたら、今年は下位も案外似ていて笑ってしまう。
以前だと警察小説や犯罪小説が有利な「このミス」、話題作や大御所、受賞作品が有利な「文春」、中道の「ミスマガ」みたいなイメージで(まったくの個人的な印象です)、ベストテン作品を見ただけでどのランキングか当てる自信があったけれど、今年のはおそらく無理。
ただ、そうなると本当に複数のランキングが必要なくなるので、雑誌の特集でやっている「文春」や「ミスマガ」はともかく、「このミス」は真剣に考えるときではないのかな。