Posted in 01 2022
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アリス・フィーニー『彼と彼女の衝撃の瞬間』(創元推理文庫)
年末ランキングで気になった作品をぼちぼち読んでいこうシリーズ。今回はアリス・フィーニーの『彼と彼女の衝撃の瞬間』。
こんな話。BBCの記者アナ・アンドルーズはBBCのニュースキャスターを突然降板させられ、失意のどん底にいた。しかも追い討ちをかけるかのように、自分が二度と帰りたくないと思っていた故郷ブラックダウンでの取材を命じられる。ブラックダウンはロンドンから車でたっぷり二時間はかかろうかというところにある田舎町。その森で女性の死体が発見されたというのだ。現地へ向かったアナは捜査担当の警部が元夫で、被害者が元親友だったことに驚くが……。
一方、事件の捜査責任者となったジャック・ハーパー警部は、情熱に燃える若手のデリヤ巡査部長と組んで捜査を開始する。ところが死体を確認してジャックは愕然とする。被害者はジャックと関係を持っていた人間で、殺された当日にも会っていたばかりなのである。やがてジャックを犯人に落とし込もうとする罠が次々と明らかになって……。

まずは「彼=ジャック」と「彼女=アナ」によって交互に語られるというスタイルに注目だろう。二人がそれぞれの立場で事件を語っていくが、その内容には少しずつ一致しないところがあり、どちらもがいわゆる「信頼できない語り手」である。そこに加えて、ときどき犯人のモノローグが挿入される。この三つの語りがある時点で、著者が叙述的な仕掛けを放り込んできているのは明らかなのだが、では、それは何なのかとなると、この語りとカモフラージュが巧みなこともあって、なかなか真相は掴めない。
プロットはそれほど複雑ではない。しかし、主人公に関する過去の因縁を小出しにし、かつ現在迫りつつある危機を同時進行させ、さらにはそれを別々の語り手に説明させることで、読者を混乱あるいは誤誘導させることに成功している。
ただ、本作が素晴らしいのは叙述そのものの仕掛けもあるけれど、オーソドックスな謎解きミステリとしてもハイレベルなところだ。正直、この過去の因縁の部分だけを普通に三人称でやってもそれなりに面白くなるネタだと思う。それを叙述+αでもって三倍ぐらいに捻ってくるから凄いのである。
個人的な好みもあるが、全般的にやりすぎの感が強いのは残念。もうあざとさの極地というか、著者がミスリードを誘いたくてウズウズしているというか(笑)。彼と彼女による一人称の叙述というスタイルもそうだし、文章やキャラクターの言動もサスペンスありきのところがかなり目立ち、リアリティという面ではやや厳しい。
もちろんこれらは著者の持ち味なのだろうし、あえてそうしているところは大きいのだろうが、もうちょっと抑えたほうが効果的な感じはする。実際、過剰描写というか思わせぶりなところが多すぎて、結果として最後まで性格が統一されていないようなキャラクターがちらほらいるのは残念だった。
ということで、そんな気になる点はあれどもトータルでは十分傑作だろう。それにしても近年のベストテン作品はこういうタイプがずいぶん多くなったようだ。それとも出版社がこういうものばかりを選んで翻訳しているのだろうか。
こんな話。BBCの記者アナ・アンドルーズはBBCのニュースキャスターを突然降板させられ、失意のどん底にいた。しかも追い討ちをかけるかのように、自分が二度と帰りたくないと思っていた故郷ブラックダウンでの取材を命じられる。ブラックダウンはロンドンから車でたっぷり二時間はかかろうかというところにある田舎町。その森で女性の死体が発見されたというのだ。現地へ向かったアナは捜査担当の警部が元夫で、被害者が元親友だったことに驚くが……。
一方、事件の捜査責任者となったジャック・ハーパー警部は、情熱に燃える若手のデリヤ巡査部長と組んで捜査を開始する。ところが死体を確認してジャックは愕然とする。被害者はジャックと関係を持っていた人間で、殺された当日にも会っていたばかりなのである。やがてジャックを犯人に落とし込もうとする罠が次々と明らかになって……。

まずは「彼=ジャック」と「彼女=アナ」によって交互に語られるというスタイルに注目だろう。二人がそれぞれの立場で事件を語っていくが、その内容には少しずつ一致しないところがあり、どちらもがいわゆる「信頼できない語り手」である。そこに加えて、ときどき犯人のモノローグが挿入される。この三つの語りがある時点で、著者が叙述的な仕掛けを放り込んできているのは明らかなのだが、では、それは何なのかとなると、この語りとカモフラージュが巧みなこともあって、なかなか真相は掴めない。
プロットはそれほど複雑ではない。しかし、主人公に関する過去の因縁を小出しにし、かつ現在迫りつつある危機を同時進行させ、さらにはそれを別々の語り手に説明させることで、読者を混乱あるいは誤誘導させることに成功している。
ただ、本作が素晴らしいのは叙述そのものの仕掛けもあるけれど、オーソドックスな謎解きミステリとしてもハイレベルなところだ。正直、この過去の因縁の部分だけを普通に三人称でやってもそれなりに面白くなるネタだと思う。それを叙述+αでもって三倍ぐらいに捻ってくるから凄いのである。
個人的な好みもあるが、全般的にやりすぎの感が強いのは残念。もうあざとさの極地というか、著者がミスリードを誘いたくてウズウズしているというか(笑)。彼と彼女による一人称の叙述というスタイルもそうだし、文章やキャラクターの言動もサスペンスありきのところがかなり目立ち、リアリティという面ではやや厳しい。
もちろんこれらは著者の持ち味なのだろうし、あえてそうしているところは大きいのだろうが、もうちょっと抑えたほうが効果的な感じはする。実際、過剰描写というか思わせぶりなところが多すぎて、結果として最後まで性格が統一されていないようなキャラクターがちらほらいるのは残念だった。
ということで、そんな気になる点はあれどもトータルでは十分傑作だろう。それにしても近年のベストテン作品はこういうタイプがずいぶん多くなったようだ。それとも出版社がこういうものばかりを選んで翻訳しているのだろうか。