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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 02 2022

都筑道夫『猫の舌に釘をうて』(徳間文庫)

 「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ。」
 そんな挑戦的かつ魅力的な一文で始まるミステリ、都筑道夫の『猫の舌に釘をうて』を読む。ン十年振りの再読になるが、以前に読んだときとはまた違う面白さを受けた。

 猫の舌に釘をうて

 主人公かつ語り手はフリーライターの淡路瑛一、いや、本作は束見本に書かれた手記という体裁を取っているので、書き手というべきか。
 淡路には十年近く片想いしている女性・有紀子がいた。チャンスは何度かあったにもかかわらず臆病な淡路は強気に出ることができず、結局彼女は淡路が紹介した人間と結婚する始末。だが、それでも淡路は未練が残り、いまだに彼女の相談相手になっているのだった。
 そんな淡路が腹いせに思い付いた“毒殺ごっこ”。淡路は有紀子の風邪薬を盗んで、それを行きつけの喫茶店で他の客のコーヒーカップに忍ばせたが、なんとそのコーヒーの飲んだ客は死亡してしまう。殺人犯は自分ということになるが、淡路が気になったのは、むしろ有紀子の風邪薬に毒を忍ばせた犯人だ。淡路は警察の追及を交わしつつ、密かに由紀子を狙う犯人を突き止めようとするが……。

 初めて読んだときには、とにかく冒頭の一文に興味を惹かれたのだが、まあセバスチャン・ジャプリゾの『シンデレラの罠』もそうだけど、この手の謳い文句はそこまで真面目に受けとらないほうがいい(苦笑)。著者としては、自作の方がジャプリゾより早く出版しているし、内容的にも勝っていると思っていたようで、確かにそれはそのとおりだと思うが、そこまでアドヴァンテージがあるわけではないので、そこには期待しない方がよろしい。
 むしろポイントはメタ・ミステリ的な構造とトリックだ。ぶっちゃけ叙述トリックのアレンジである。淡路が信頼できない語り手であり、そこに仕掛けがあるとは予想できるが、まったく予想外の方向から飛んでくるのは今読んでも見事としか言いようがない。変に凝らず、一撃で決めているところも潔くて好印象だ。
 
 若い頃に比べ、プラスして面白いと思ったのは、昭和の風俗や出版業界の空気が感じられるところ。決して今の若い人が共感できるようなものではないかもしれないが、この頃の業界特有のルーズ感やインテリ崩れ感がなんとも言えない。著者の体験がかなり反映されているだろうからリアリティがあるのは当然として、この空気を多少は知る身としては、それが非常に心地よく楽しく読めた。
 ただ単なる味付けだけではなく、そういうところをミステリ上のカモフラージュとしても役立てているからさすがである。
 世の中が電子書籍一色になる前に、ぜひ読んでもらいたい一冊。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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