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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 03 2022

笹沢左保『暗鬼の旅路』(徳間文庫)

 笹沢左保の『暗鬼の旅路(『暗い傾斜』改題』)』を読む。以前コメント欄でくさのまさんからお勧めいただいたもの。

 こんな話。太平製作所の若き女社長・汐見ユカは、素人発明家の三津田に二千万円を投資し、空中窒素の固定化を研究させていた。ところが株主総会で研究が失敗だったことが明らかになり、ユカもその責任を取らざるを得なくなる。悪いことに、二千万円はユカが個人的に大株主の矢崎から借りたものであり、さらには直後に三津田が失踪。ユカは三津田を自首させるために彼の跡を追うが、関係者には金策のためだと伝えてくれと総務部朝の松島に依頼する。
 しかし、松島のもとに届いた連絡は、三津田とユカが高知の室戸岬で心中事件を起こし、ユカだけが一命を取り留めたというものだった。しかも時を同じくして、矢崎も東京の護国寺で死体となって発見された……。

 暗鬼の旅路

 企業に関わる経営者、部下、研究者、投資家などがそれぞれの立場で動きつつ、裏では公とは別の人間関係や事情、例えば立場を超えた恋愛関係なども絡むという設定は、サスペンスドラマ的な展開といえばいえるし、ストーリーを引っ張る常套手段ではある。
 しかし、そんなベタな展開が、実は物語の味付けというだけではなく、メインの仕掛けとなるアリバイトリックの説得力をより高めるための手段であることに舌を巻いてしまった。ネタそのものは確かに無理があるかもしれない。だが、それをリアルに思わせる描写の確かさがある。また、その結果として作品のテーマがより明確になるという側面もあり、やはり笹沢左保は侮れない。
 ミステリと文学の融合みたいな表現があるけれど、笹沢左保はさしずめミステリと通俗文学の融合と言えるかもしれない。ミステリが通俗文学の一種であるという話はともかくとして、昭和ミステリの楽しさというのは、実はこういうところにあるのではないだろうか。

 なお、本作はもともと『暗い傾斜』という題名だったが、『暗鬼の旅路』に改題されて、管理人もそちらを所持している。理由は不明だが、おそらくセールス上、字面の力が弱く感じられたのかもしれない。ただ、作中終盤で“暗い傾斜”という言葉についての言及があり、その意味を踏まえると、やはり“暗い傾斜”のままが適切だったのではないだろうか。もし「トクマの特選!」で復刊されるようなら、再び『暗い傾斜』に戻してほしいものだ。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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