『或る光線 木々高太郎科学小説集』を読む。木々の科学小説を中心にまとめた短篇集の復刻である。まずは収録作。
「或る光線」(脚本)
「跛行文明」
「蝸牛の足」
「糸の瞳」
「債権」
「死人に口あり」
「秋夜鬼」
「実印」
「封建性」
「親友」

木々高太郎がこんなに科学小説を書いていたとは知らなかったが、医学者でもある木々のことなので、考えるとそこまで不思議ではない。ただ、読んでみると実際には収録作すべてが科学小説ではないし、科学小説であってもいわゆるSF風味はそれほど強くはない。科学を題材にした広義のミステリを含む探偵小説集といった感じである。
たとえば冒頭の表題作「或る光線」では、戦争中に開発された殺人光線を扱っている。海野十三あたりがそんなガジェットを扱った日には、血湧き肉躍る国威高揚冒険ものしか想像できないが、木々は慌てず騒がず。あくまで文明批判の手段として描き、クールな防諜ものにまとめている。続く「跛行文明」も同様で、決してSF的な興味ではなく、やはり文明批判的にアプローチする。この二作は探偵小説芸術論を打ち出した著者らしく、メッセージ性やテーマに重きを置いた作品といえるだろう。
とはいえ以後の作品はシリーズ探偵の志賀博士や大心池先生が登場し、比較的エンタメ度が高いものが並ぶ。特に「債権」などはアンソロジーに収録されることも多い佳品だし、「死人に口あり」のようなバカトリック作品もそれはそれで面白い。
ノンシリーズも悪くない。「秋夜鬼」は掌編ながら味わいで読ませる怪談。「実印」もトリックこそひどいけれど(苦笑)、ラスト五行が効いていて捨て難い作品である。
ということで嬉しい誤算といっては失礼だが、アベレージも高くなかなか楽しめる一冊であった。