湘南探偵倶楽部さん発行の小冊子から大河内常平の短篇『海底の情鬼』を読む。
相模灘に面した小さな漁村に似つかわしくないコンクリート造りの別荘があった。主人は東京の資産家の跡取り息子・隆次郎。彼は村人とは関係を持たず、通いの老婆、雑用係の漁師・徳治という若者だけを雇い、専ら魚類の研究に没頭していた。だが、そんな隆次郎の元に許嫁・冴子がやってきたばかりに、彼らの運命は大きく狂い始める……。

冒頭で隆二郎の死と、その容疑者が徳治であると語られる。だが、その裏にはどのような事情があったのか、徳治が隆二郎に雇われた頃から物語は巻き戻される。
ひと言でいえば魚類研究者の狂気を描いたスリラーで、話自体はシンプルな復讐譚だ。しかし魚類研究者・隆次郎のねじれ具合というか、ぶっちゃけ海底に沈む死体を愛撫するというイメージが鮮烈すぎて、短いながらも読み応えあり。やはり大河内常平は面白いな。
なお、読後にネットで調べてみると、本作は盛林堂ミステリアス文庫から刊行された『人造人魚』にも収録されているようだ。なんだ、そっちも持ってるじゃないか。こりゃ積ん読のバチが当たったか(苦笑)。というか論創ミステリ叢書の『大河内常平探偵小説選』も積んでいるし、そろそろ消化する頃合いなのかな。