集英社文庫の「明智小五郎事件簿」が復活した。といっても既に六ヶ月以上も前のことになるので、何を今更の感しかないのだが、とりあえずめでたい。もちろん戦前編から読んでいる人はとっくにご承知だろうが、「明智小五郎事件簿」とは名探偵・明智小五郎の活躍を物語発生順に紹介するシリーズである。戦前編で完結したと思ったら、やはりリクエストが多かったらしく、戦後編がスタートしたのだ。
ただ、戦後編はジュヴナイルも多いということで、少年ものに関しては重要作品をセレクトするにとどまっている。未収録分に関しては戦前編でもお馴染みの平山雄一氏がコラムでフォローする形となったが、まずは喜ばしいかぎりである。

本日の読了本はその戦後編の第一巻『明智小五郎事件簿 戦後編 I 「青銅の魔人」「虎の牙」「兇器」』である。
「青銅の魔人」は戦後の明智復活の第一作ということもあり、乱歩の少年ものでは人気の高い作品だが、個人的には「青銅の魔人」というキャラクターにに対してそこまで魅力を感じられず、思い入れは少ない。ただし、小林少年が「青銅の魔人」にされてしまうという展開など、言ってみればフェチシズムの香りが濃厚で、子供の頃に読んで非常に複雑な感情を抱いたのが思い出される。
また、チンピラ別動隊という孤児の集団の扱いなど、戦後の状況を偲ばせる描写も多く、そういう意味では単に戦後第一作という括りだけで語られるのは、ちょっともったいないのかもしれない。
「虎の牙」はのちに『地底の魔術王』と改題された作品。二十面相扮する魔法博士と小林少年の対決がメインで、明智は病気療養中という設定。もちろん終盤は明智の活躍が見られるものの、少年向け、とりわけ戦後作品では、明智は完全に一歩引いているスタンスが多くなる。
これは少年向けということもあるだろうが、物語そのものが既にパターン化してきていることも合わせて考えると、やはり乱歩自身のパワーダウンは否めないだろう。それでも本作などは比較的趣向を凝らしており、前半で描写される奇術ショーなどはなかなかの見せ場で、個人的には割と好きな作品である。
なお、「青銅の魔人」、「虎の牙」と続けて読むと、二十面相の明智に対する恨みが非常にエスカレートしていて気になる。ストーリーの流れというよりは、どうしても戦争の影響を考えてしまうのだが、二十面相の人格という面から研究している人はいるのだろうか。
「兇器」は大人向けの短篇。本筋もさることながら、数学の問題が実に印象的。実は数学の問題というよりクイズであり、この時代からこういうタイプのクイズがあったのだと驚かされる。