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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 10 2022

アレックス・ベール『狼たちの宴』(扶桑社ミステリー)

 アレックス・ベールの『狼たちの宴』を読む。ユダヤ人古書店主が何の因果かゲシュタポ犯罪捜査官になりすます羽目になったイザーク・ルビンシュタイン・シリーズの第二弾である。
 ユダヤ人がゲシュタポの捜査官になりすますというスパイ小説・冒険小説的な面白さ、捜査官として事件の謎を解く警察小説・本格ミステリとしての面白さ、さまざまな要素を一度に楽しめ、シリーズ第一作となる『狼たちの城』は文句なしの傑作であった。
 ちなみに前回、ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』の記事でも同じことを買いたような気がするが、本作も設定がかなり破天荒だから、本作だけで情報を消化するのはやや難しい。本作だけを楽しむこともできないではないが、できれば第一作の『狼たちの城』は読んでおいた方がよい。そもそもこちらも傑作なので、読まないのがもったいない。

 狼たちの宴

 さて、『狼たちの宴』だが、こんな話。
 ゲシュタポの犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマンに間違われ、何とか女優殺害事件を解決したユダヤ人の古書店主イザーク・ルビンシュタイン。ボロが出ないうちに脱出したいイザークは、レジスタンスと連絡を取るなか、戦況に大きな影響を与えると思われる機密文書の存在に気づく。脱出をギリギリまで延ばし、文書の奪取に動くイザークだったが、新たに殺人事件が発生し、またも捜査にあたることに……。

 相変わらず巧いし面白い。上でも書いたが、スパイ小説、冒険小説、警察小説、本格ミステリとさまざまな要素が入り乱れ、それでいて破綻なく、バランス良くまとまっているのが素晴らしい。本来であれば非常にシリアスで重い題材ではあるのだが、それをスリルや謎解きなど、幾つものエンタメ要素が混じることでまろやかにし、ユーモアもスパイスとして振りかけられているのもいいところだ。
 もちろん設定の面白さというところが大きいので、ストーリーやインパクトは第一作には及ばないものの、その分、事件の方にページを割くことができ、加えて今回はヴァイスマンの正体を疑うものが多数出てきて、そういう興味での面白さは向上している。特に後者については、ヴァイスマンに惹かれる女性や捜査の相棒、新聞記者など、多くの目がイザークの行動に注がれ、それらをどうやって切り抜けるかも要注目である。

 惜しむらくは、ややご都合主義的に流す傾向があるところだろう。前作でも少し目についたが、殺人事件の犯人を絞り込むところなどもそうだし、正体がバレるピンチもまさかという切り抜けかたをする。この辺りにもう少し工夫があればなおよかった。それらを考慮すると、面白いけれど前作には及ばずというところか。
 ただ、この状況が長く続くようだとさすがに現実的ではないし、下手をすると馬鹿馬鹿しさが先に立つ可能性もある。あまり長引かせず、できれば次作でキッチリと方をつけてほしいところだ。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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