もうすぐ「トクマの特選!」から笹沢左保の『結婚って何さ』が復刊されるというので、積ん読から掘り出してひと足早く読んでみた。
こんな話。上司の嫌がらせに怒って会社を辞めた遠井真弓と疋田三枝子。やけ酒とばかりにハシゴを続けるうち、行きずりの男と意気投合して最後は旅館に泊まって酔い潰れる。ところが翌朝、起きてみると男は絞殺死体となっていた。怖くなった二人は警察に届けず、そのまま逃げようとするのだが……。

なんせタイトルがひどいので(苦笑)、ちょっと後回しにしていたところはあるのだが、さすが
『招かれざる客』、
『霧に溶ける』、
『人喰い』などと同じ1960年に発表されただけのことはあり、本作もまたなかなかの出来栄えだ。
基本的には巻き込まれ型のサスペンス。主人公の真弓がわずかな手がかりを頼りに自分で犯人を探そうとするが、あっという間に友人を失い、さらには第二、第三の事件に遭遇して……というスピーディーかつ予想外の展開が素晴らしい。とりわけそれらの事件が真弓自身の事件とは一見、関係ないと思われるところがミソ。
巻き込まれ型サスペンスといえば、古くはアイリッシュの作品などのように、主人公の打つ手打つ手が先回りするかのように新たな事件が起こったりするものだが、本作は複数の事件が同じタイミングで発生していたというのが面白い趣向である。もちろんそんな偶然はそうそうないだろうということなのだが、ではその関連やいかに?というのが謎の軸となる。読み進めるうち、これがただの巻き込まれ型のサスペンスではないことに気づく、その瞬間が最高である。
このほかにも密室殺人、アリバイ崩しなどもあるし、まあ、どれも大技とまではいかないし、しっかり前例もあるネタではあるが、プロットが非常によく考えられており、十分に佳作レベルといってよいだろう。ただ、短か目の長篇でスピード感優先ということもあってか、少々強引な処理が目立つのがもったいなく感じた。
本作の魅力としては、昭和三十年代の時代風俗やキャラクターが生き生きと描かれている点も忘れてはならないだろう。もともと笹沢作品にはそういう傾向が強いけれど、本作では主人公のOLが当時でいう「はすっぱ」、今でいうヤンキー系の女性であり、会話や行動力に独特のキレがあるというか、より効果的な印象である。
ただ、クセが強いだけに、人によっては拒否反応も出そうな気もするが(苦笑)。
ちなみに管理人が読んだのは古本で買ってあった講談社文庫版で、ほかには光文社文庫版もあるようだ。古書でも入手しやすい一冊ではあるが、せっかく近日、徳間文庫から復刻されるので、気になる方は応援の意味でもぜひそちらでどうぞ。