名探偵・明智小五郎が登場する小説を、物語の発生順にまとめた〈明智小五郎事件簿〉シリーズ。その戦後編の三冊目、『明智小五郎事件簿 戦後編 III 「サーカスの怪人」「妖人ゴング」』を読む。
収録作は題名どおり少年探偵団ものの「サーカスの怪人」と「妖人ゴング」の二長篇を収録。個人的にはどちらも再読だが、読んだのはなんと小学生のとき以来となる。

「サーカスの怪人」は「グランド=サーカス」を舞台に暗躍する謎の骸骨紳士が登場する。怪人のレベルとしてはそこまで突飛なものではないが、執拗なほど骸骨紳士が人々を驚かすエピソードが続くのが印象的。アクションシーンも空中ブランコや象、熊など、サーカスのアイテムを活用して面白い。
ただ、本作の肝はそれよりも、二十面相のある秘密が明らかになること、そして無茶苦茶なメイントリックにあるだろう。前者は有名なネタだからともかくとして、問題は後者。いくら何でもやりすぎであり、当時の子供だってちょっと呆れたり怒ったりしたのではないか(苦笑)。まあ、そういうところも含めて読み応えはある。
「妖人ゴング」は「サーカスの怪人」に比べるとかなり落ちる。「妖人ゴング」というギミックが時代を考慮してもかなり弱いことがまずあるけれど、それよりも小林少年や怪人二十面相が窮地に陥った際の描写がけっこうエグく(もちろん少年探偵団ものにしては、だけど)、そちらばかりが気になってしまった。
また、物語の冒頭で、新しくマユミという少女が探偵団に加わるシーンがあるけれど、年齢を考えてもその後の行動をみても、とても探偵団向きではない。おまけに探偵団の子供たちがのっけから意味なく「女王様ばんざーーい」とやってくれるので、どうにもヒロイン像の造形に失敗したとしか思えない。この時期の乱歩はどうにかしていたのだろう(笑)。
とりあえず、これで「明智小五郎事件簿」もとうとう残り一冊となった。ラストはいつにするかな。