fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 01 2023

ウォルター・デ・ラ・メア『アーモンドの木』(白水Uブックス)

 ウォルター・デ・ラ・メアの短篇集『アーモンドの木』を読む。アンソロジーなどではいくつか作品に接しているが、まとまった形で読むのはこれが初めてである。まずは収録作。

The Almond Tree「アーモンドの木」
The Count’s Courtship「伯爵の求婚」
Miss Duveen「ミス・デュヴィーン」
Seaton's Aunt「シートンの伯母さん」
Strangers and Pilgrims「旅人と寄留者」
Crewe「クルー」
Lucy「ルーシー」

 アーモンドの木

 これはジワジワくる短篇集である。これまで著者のことを怪奇小説の書き手というイメージで捉えてしまっていたが、そんな狭いイメージで括ってはいけない作家であった。
 人の営みに垣間見える不条理な部分、心の闇といったものを静かに浚い、その意味するところをゆっくりと炙り出すような、そんな作品である。その炙り出された結晶が暗い輝きを放ち、見続けずにはいられなくなってしまうのだ。
 だから「中には怪奇小説でないものもある」というよりは、むしろ「中には怪奇小説のようなものもある」ぐらいの認識でいいのだろう。とはいえ、それもあくまで本書を読むかぎりでの話なので、もしかするともっと怪奇小説寄りの作品もあるのかもしれないし、全貌についてはより多くの作品を読む必要もあるだろう。
 ただ、言えるのは、とりあえず作品のトーンや方向性はガッツリ管理人の好みである。

 表題作「アーモンドの木」はまさにそんな作品の一つで、まったく怪奇小説などではない。語り手は幼い少年であり、両親や使用人と暮らしている。ところが両親は不仲のようで、その原因は父の浮気にあり、しょっちゅう家を留守にする。挙句に少年を浮気相手と会わせたりもする。母は父を憎むが、それでも真っ向から対立しようとせず、いつか気持ちが自分に帰ってくることを期待している。やがて終焉が思いがけないところから現れ……というようなことが少年の目を通して語られる。
 ただ、少年は目の前の事実は語るけれども、もちろんその事実の意味を何割かぐらいしか理解できていない。いったい何が起きているのか、少年というフィルターを利用することで真相を明言せず、それによって読者の興味や想像を掻き立てる。この言いようのない不安感を煽る手法こそが著者の作風であり、最大の魅力だろう。
 しかし、本作で驚かされたのは大人たちの行動ばかりではない。語り手である少年が、身勝手な大人たちの単なる被害者ではないということもそうだ。ラスト2ページは色々な意味でえげつないし、登場人物すべての心に闇がある。後味も苦く、本書中ではもっとも気に入った作品だ。

 他では「ミス・デュヴィーン」や「シートンの伯母さん」も同傾向の作品であり好み。「シートンの伯母さん」あたりは怪奇風味がやや強めに入っていることで、より一般的におすすめしやすい作品といえるだろう。

 解説によるとデ・ラ・メアは児童書も多く残しており、「アーモンドの木」などは普通に子供向けの雑誌・書籍に掲載されているという。どう考えても「アーモンドの木」が子供向けの作品とは思えないのだが、それを平然とやるところに英国ならではの懐の深さというか、我が国が逆立ちしても敵わない部分がある。歴史や文化の違いはあるだろうが、子供向けだからといって毒性を薄めることをしないのは偉いところだ。


« »

01 2023
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー