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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 09 2023

ポール・アルテ『吸血鬼の仮面』(行舟文化)

 ポール・アルテの『吸血鬼の仮面』を読む。行舟文化からアルテの小説が出るようになってもう五年ほどになるが、よくぞ続いているものだと思う。内容はアルテらしくオカルト趣味を打ち出した本格ミステリが中心だけれど、若干、クセがあるというか、ひねくれたアプローチが多いの特徴的。出来に若干ばらつきがあるのは難だが、それでも一応は読んでおきたいと思わせる魅力がある。
 ただ、内容は良いとして、アルテ自作の絵を使った装丁は、タイトルのフォントとかも相まって、どうにも古臭いのが残念だ。本書もタイトルがどうにも昔のオカルト雑誌みたいで垢抜けない。狙ってやっているのかどうかは不明だが、もう少しデザインの方向性は変えてもよいのではないだろうか。

 まあ、それはともかく『吸血鬼の仮面』である。タイトルが昔のオカルト雑誌みたいと書いたが、中身の方もとりわけオカルト趣味全開である。

 田舎町のクレヴァレイで、変死事件や子どもを襲う怪人騒動で恐怖に包まれていた。やがて三人の男が、犯人を捕まえるため墓地で見回りをすることにしたが、納骨堂で一年半前に死んだ女性の遺体を目にする。だが不思議なことに、彼女の遺体はつい先日亡くなったかのように綺麗なままであった。
 一方、美術評論家で素人探偵のオーウェン・バーンズは、ある老人のと牧師の変死事件に関わっていた。先が短いと感じた老人は牧師を呼び寄せ、ある事実を告げた。ところがその帰り道で牧師は馬車に轢き逃げされ、老人もその後に訪ねてきた何者かによって命を落とした疑いがあったのだ……。

 吸血鬼の仮面

 上の二つの事件がやがて一つに収束されるのは当然として、それらの中心にあるのが「吸血鬼」というのが本作最大の魅力だろう。オカルト趣味満載のアルテ作品にあっても、ここまでベタなパターンも珍しい。なんせ容疑者は吸血鬼なのだ。
 特に前半は、田舎町での吸血鬼騒動をゆったりと描いて雰囲気を盛り上げる。吸血鬼の仕業としか思えない不思議な事象が次々と発生し、おまけにヒロインのロマンスもいつもより耽美成分を多めに入れて、まるでゴシックホラーである。
 いつにも増してアルテの稚気が爆発している感じであり、ファンならそれだけでも買う価値はあるだろう。

 もちろん本作は本格ミステリなので、当然ながらこれらの怪奇現象にはしっかりとタネがあり、その種明かしががまた楽しい。
 腐らない死体、鏡に映らない人間、首に噛まれえたような傷、そして定番の密室などなど。数が多いので、中には他愛ないものもあるし、機械的トリックも含まれている。そこまで驚くようなアイデアではないけれど、こういうテーマに沿っての小技連発みたいな作品も、それはそれでいいなと思わせる。
 また、ネタバレになるので詳しくは書かないが、ラストの謎解きシーンの後のプラスαが、サプライズだけでなく物語としてもも非常に効果的である。

 ということで全体的には面白く読める作品。まあ荒唐無稽であることは間違いないし、正直、(ミステリ的な)粗もチラホラあるのだけれど、アルテのような作風にはありがちなことでもあり、そういう欠点はあまり気にしないで楽しむ作品といえるだろう。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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