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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 09 2023

マックス・ブルックス『モンスター・パニック!』(文藝春秋)

 マックス・ブルックスの『モンスター・パニック!』を読む。あの異色のゾンビ小説、オーラル・ヒストリーの手法を使った『WORLD WAR Z』の著者が、今度はビッグフットを題材に書いた作品である。
 ビッグフットとはいわゆるUMA(未確認動物)の一種で、猿人タイプのもの。場所によって、サスクワッチ、イエティ、雪男などと呼ばれることもある。

 こんな話。作家マックス・ブルックスの手元に、一冊の日記が届けられた。それはレーニア山の噴火によって被災し、今は廃墟となったエココミュニティの住人の一人が書いたものであった。当時の噴火で集落は全滅、生存者も見つかっていないその集落で当時何が起こったのか。手記に記されたのは、信じ難いことに、ビッグフットと思しき生物との邂逅と闘いの記録であった……。

 モンスター・パニック!

 客観的にいって、かなり良くできたモンスター小説である。人間とモンスターとの戦いはなかなか迫力があるし、人間ドラマの部分もバランスよく配分され、メッセージ性も程よく織り込まれている。ちょっとボリューム過多かなとは思うけれど、突飛な内容を実に丁寧に描いているという印象だ。

 ちなみにモンスター小説やモンスター映画というと、なぜか大抵チープなメッセージが設定されていたりするものだが、要は文明批判や科学批判というやつで、本作はこれがちょっと捻ってあって面白い。
 舞台となるエココミュニティというのは、ザクっというとハイテクを持って自然との共生を目指し崇高な生き方を目指す人々の集まり。まあ、ニュースなどを見ているとこういう人々は意識が高すぎるあまりか、なぜか融通が効かず、自分たち以外の考えを認めず、しかも攻撃的である。とにかく危うい印象しかなくて、本作はそういうところに注目する。つまり文明批判をする側を逆に批判し、そういった活動の危険性を指摘しているのである。ここが面白い。
 本作の原題は『Devolution』で、これには退化とか原点回帰、権限委譲という意味があるのだけれど、上記のメッセージ性がタイトルにも込められている。だから邦題の『モンスター・パニック!』は内容を表してはいるものの、あまりに不粋でがっかりである。だいたい『モンスター・パニック』というまったく別の内容の映画があるので紛らわしいことこの上ない。

 なお、ビッグフットを扱う小説はなかなか珍しく、そういう意味でも貴重な一作だと思うが、個人的にはモンスター小説の主役としてはあまり好みではない。こういうのは人間とかけ離れた姿形の方が想像が膨らむというか。まあ、あくまで好みの問題だが。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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