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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 09 2023

島久平『密室の犯罪』(湘南探偵倶楽部)

 島久平の短篇「密室の犯罪」を読む。湘南探偵倶楽部さんから出た小冊子で、島久平というのが珍しい。
 この三十年ほどでかなりの国内外のレア作品・作家が復刻されてきたけれど、島久平はそこまで人気が出なかったのか、河出文庫から出た『島久平名作選 5−1=4』と光文社文庫の〈本格推理マガジン〉の一冊に収録された『硝子の家』ぐらいしか記憶にない。本作はそれらの本にも収録されておらず、嬉しい復刻である。

 こんな話。伝法探偵のもとへ南刑事が相談にやってきた。親の遺産で優雅に暮らす青年・油津が、自宅の研究室で死亡しているのが発見された。現場はコンクリートの壁と鉄の扉で閉ざされており、当初は自殺かと思われたが油津の体には複数箇所の銃創があり、自殺にしては不自然であった。また、研究室の中にはあらゆるものを溶かす劇薬タンクがあった。犯人はここに落ちて解けてしまったのでは、とする考えも浮上したが……。

密室の犯罪

 あまりにベタベタなタイトルなので、さぞや力の入った密室ものかと思ったが、ううむ、これは本格ミステリというよりサスペンスだし、こちらの期待と予想をいろいろな意味で裏切る怪作でもある。
 まず密室のトリックがもうトリックになっていない。おまけに事件の内容を聞いた伝法探偵が、早々に答えを出してしまうという荒技。その後は一応捜査も行われるが、最終的には謎解きも事件解決も披露されない。というか、事件を解決したかどうかすら描かれていないのである(笑)。
 では事件の真相はどうだったのか、それは並行して描かれる油津青年のパートで明らかになるという具合。こちらはサイコサスペンスというノリで、変な迫力はあるけれど、とにかくいろいろと省略しすぎである。まるで梗概を読んでいるようで、もう少し油津パートを膨らませれば、それなりにちゃんとしたものになったかもしれないが、そもそもこの構成がなんとも収まりが悪くて、正直、捜査のパートの必要性がまったくない(苦笑)。

 ということで作品の質はともかく、話のネタにはもってこいの一作。こういう機会でもなければ、おそらく絶対に読めなかっただろうし、とりあえず読めたこと自体はよかった。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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