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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 11 2023

ジョルジュ・シムノン『メグレとマジェスティック・ホテルの地階』(ハヤカワ文庫)

 ジョルジュ・シムノンの『メグレとマジェスティック・ホテルの地階』を読む。かつて『EQ』で『メグレと超高級ホテルの地階』として掲載されたものの新訳。一度読んでいるがまったく内容を覚えていないし、新訳文庫化とあれば、これはやはり読むしかあるまい。

 パリの高級ホテル〈マジェスティック〉の地下で女性の死体が発見された。発見者はホテルの従業員ドンジュ、被害者は宿泊客のアメリカ人実業家の妻であった。メグレ警視が捜査を続けるうち、ドンジュがかつてカンヌで被害者と関係があったことが明らかになり、状況はドンジュの怨恨による殺害であることを示していた。おまけに匿名の手紙によって、ドンジュはますます危うい立場に陥るが、メグレはどうしても彼の犯行だとは思えなかった……。

 メグレとマジェスティック・ホテルの地階

 当たり外れの差があまりないメグレものだが、そんな中でも本作は上位に位置する作品だろう。
 基本ストーリーは容疑者ドンジュの人生を再構築することが中心になる。性格はおとなしく、財産や外見も含めて何の取り柄もないドンジュの人生は、極めて寂しいものだった。しかし、同じように社会の底辺で生きる人たちにとって、彼は誠実な友人であり、彼のことを庇ってくれる者もいる。メグレもまた彼を信じようとする一人になる。
 捜査と並行してドンジュの人生にも迫ってゆくメグレが読みどころだが、下層階級と上流階級の差など、当時のフランスの厳しい現実を突きつけてくるところも鮮やかだ。しかし、これだけだと、まあ、いつものメグレものである。

 本作がいつものメグレものと比べて面白いのは、いつにも増してシムノンがサービス満点のところだ。メグレが女性にケチョンケチョン(死語)に言われたり、関係者に殴られたり、言葉が通じないアメリカ人と堂々巡りのやりとりを見せたり、対立する判事にネチネチ言われたり、挙句にそれまで溜まった鬱憤を晴らすかのように犯人を殴ったりもする。とにかく珍しくメグレがフル回転するイメージなのだ。
 極め付けはラスト。なんとメグレが皆を集めて謎解きをするのである。それだけに謎の設定もいつもより凝っている印象だし、それなりに意外性もある。

 メグレものは一応ミステリながら、まるで心理小説のような趣を備えている。特に初期作品はその印象が強いが、本作はそんなメグレものをエンターテインメントに寄せたという感じである。本作はシリーズ中期の作品だが、中期はそもそもそうしたエンタメ路線が強いといわれており、そういう意味ではメグレ初心者にもおすすめしやすい作品といえるだろう。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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