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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 11 2023

マイクル・コナリー『正義の弧(下)』(講談社文庫)

 マイクル・コナリーの『正義の弧』上下巻読了。
 ううむ、これはまた、いろいろとぶっ込んできたな(笑)。ただ、ストーリー上での衝撃はそれなりにあるけれども、どうにも描き方として浅いし、そもそも警察小説やハードボイルドとしては凡庸な出来だ。

正義の孤(下)

 まずミステリとしてみた場合、つまり警察小説やハードボイルドとしての評価になるが、女子高生殺人事件と一家殺害事件、二つの事件を並行して描いてはいるが、プロット上の工夫や捻りはあまり見られない。女子高生殺人事件の方では中盤の盛り上げは悪くないし、サプライズもないではないが、犯人の行動にそこまで説得力が感じられないのが残念。あまりに現実的ではないし、その解決の仕方、事後処理も含めてスッキリしないことだらけである。
 ただ、一家殺害事件の方はもっとシンプルなうえ、この事件に至ってはボッシュの苦悩や葛藤を描くために書かれたようなエピソードで、正直、事件としての面白みはない。

 本作は結局、ミステリとしての興味より、ボッシュとレネイのドラマに重点を置きすぎた感じである。
 つまり、かつての師弟関係から立場が逆転したボッシュとレネイの内面である。さらに老境に入ったボッシュの覚悟、その結果、正義を遂行することへの意識みたいなものが混然となって描かれる……はずだったのだが、こちらもまた消化不良である
 おそらくは全体においてボッシュがあっさりと割り切りすぎなのが原因だろう。かつての怒りに狂っていたボッシュも歳をとって丸くなったというのは簡単だが、丸くなったというより葛藤しなくなったという方が正解かもしれない。ボッシュは本作でとんでもない決断を二度ばかり行うのだが、本来それらは相当にショッキングなはずなのに、その際のボッシュの葛藤や苦悩の描き方が非常に少ない。そのせいで説得力にも欠けるのである。

 マンネリ化を防ぐために主人公の置かれる立場をしょっちゅう変えているのかも、というのは先日の感想でも書いたとおり。本作ではそれらに加え、上記のようなドラマ上のさまざまな爆弾を仕込んでいるのだけれど、それすらストーリーに変化を持たせるためのギミックに思えてしまう。

 ネット上ではまあまあ好意的な感想は多いし、確かに客観的に見ると凡百の警察小説に比べれば全然出来はいい方だろう。ただ、シリーズ中では落ちる方だろうし、個人的にはまったく納得のいくものではなかった。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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