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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 11 2023

ヘザー・ヤング『円周率の日に先生は死んだ』(ハヤカワ文庫)

 ヘザー・ヤングの『円周率の日に先生は死んだ』を読む。知らない作家ではあるが、これは完全にタイトル買い。原題は The Distant Dead という抽象的なものなので、これは邦題が上手い。

 まずはストーリー。3月14日は円周率にちなんで円周率の日とされている。その日、ネヴァダ州の田舎町ラヴロックで、数学教師のアダム・マークルが焼死体で発見された。第一発見者はアダムの教え子であるサル・プレンティス。物静かで聡明なアダムだったが、生徒の人気は決して高くなく、親しい友人もいなかった。唯一、アダムを気にかけていた社会科教師のノラは、事件後何も話そうとしないサルに疑念を持ち、独りで二人の間に何があったのか調べようとするが……。

 円周率の日に先生は死んだ

 事件は主に少年サルと教師ノラ、さらにはサルの母親に惹かれていた地元消防団のジェイク、保安官補でノラの元夫メイスンらの視点で交互に語られる。また、事件後のパートと、アダムが学校に赴任してきた頃から遡って語られる過去パート、この二つも交錯するスタイルをとり、なかなか凝ったストーリー構成である。
 ただ、そこにミステリ的な意味はあまりない。アダムを殺害したのは誰か、という興味はもちろんあるものの、重きを置かれているのは、あくまでサルとアダムの交流であり、内面であり、さらには事件に自己の半生を投影して苦悩するノラの姿である。ここにサルの伯父やアダムの元妻、元教え子も絡んで、閉塞した田舎町での社会や人間を掘り下げてゆく。
 語り口も丁寧で、キャラクターもしっかり立っており、けっこうなボリュームもあって読み応えは十分である。

 一方、ミステリとしてはまずまずといったところ。事件関係者が少ないこともあって真相は読まれやすいが、どんでん返しも一応用意されている。ただ、全般的にミステリらしさが薄く、捜査の進展も終盤に入ってようやく、といった感じだから、そちらを当てにするとやや肩透かしをくう。
 とはいえ先に書いたように人間ドラマとしては読み応えもあるし、全然悪い小説ではない。そういう意味では普通小説として味わった方がよいのかもしれない。

 なお、タイトルからくる数学的なイメージが思ったほど内容に生かされていないことは少し残念。面白い数学に関する話は出てくるが、雑学的な範囲で止まっているため、もう少し事件に絡められると、また違った面白さも加えられただろう。といっても、これは邦題のせいなので著者には罪がないのだけれど。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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