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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 12 2023

マージェリー・アリンガム『ファラデー家の殺人』(論創海外ミステリ)

 マージェリー・アリンガムの『ファラデー家の殺人』を読む。アルバート・キャンピオン・シリーズの一作だが、長編を読むのは随分久しぶりだ。作品ごとにかなり作風が変わるので、なかなかイメージを捉えにくいキャンピオンものだが、本作は初期には珍しいガチガチの本格探偵小説である。

 ファラデー家の殺人
▲マージェリー・アリンガム『ファラデー家の殺人』(論創海外ミステリ)【amazon

 こんな話。職業冒険家を名乗るアルバート・キャンピオンの元へ一人の若い女性ジョイスが訪ねてきた。彼女の婚約者でもあるキャンピオンの旧友マーカスから紹介され、ある相談にやってきたのだ。
 現在、ジョイスは遠縁のファラデー家において、主人でもある大おばのキャロラインに請われ、一族の付添人のようなことをやっている。一家にはキャロラインの他に、その息子や娘、甥などが一緒に暮らしているが、その全員が老齢ながらこれまで職を持つでもなく、キャロラインの支配下に置かれていた。誰もが不満を抱え、不穏な空気が充満する中、ついに甥のアンドルーが行方不明になってしまう。何やら胸騒ぎのするジョイスは、恐ろしいことが起こるのではないかと、キャンピオンに調査をしてほしいというのだ。
 だが時すでに遅し。ジョイスが話を終えたそのとき、アンドルーの変死体が川で発見されたというニュースが飛び込んでくる。だが、それは連続して降りかかる悲劇の幕開けに過ぎなかった……。

 いわくつきの一族が暮らす屋敷を舞台に、次々と発生する連続殺人事件。一族の面々は信用できない者ばかりという設定がいかにもで、地味ながら緊迫感あふれるストーリーは、古典ミステリを読む喜びを十分に満足させてくれる。
 もちろん本格ミステリだから、サプライズや斬新なトリックもないよりはあった方がよい。実際、本作におけるメイントリックも、この種のものとしては先駆けらしく、当時はもちろん今読んでも十分に評価されて然るべきだろう。
 ただ、そのトリックが生きるには、やはり小説として諸々の高い水準が必要だろう。それがプロットであったり人物描写だったりするわけで、さらにはそれが説得力や作品の魅力にも通ずる。本書の「訳者あとがき」ではロバート・バーナードの「真祖がそれまでの経緯の論理的かつ唯一可能なクライマックスとなる、この上なく納得のいく探偵小説」という言葉を挙げているが、まさしくそのとおりである。ここに謎解き小説の本質がある。

 ちなみにアリンガムの人物造形にはいつも感心するが、本作のファラデー家の面々も全員捨てがたく、個人的には誰が犯人でも面白かっただろうなという、変な感想を持ってしまった。
 ネタバレ回避のため人物名は書かないが、誰それが犯人だったらクリスティのアレ風だったとか、こいつだったらクイーンのアレっぽいとか……そんな感じで全員分妄想できるわけである(決して推理ではない)。そういう意味では、アリンガムの作品は名優が勢揃いして演じる舞台を観るような、そんな楽しみもあるといえる。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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