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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 02 2024

アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』(河出書房新社)

 河出文庫からアヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』が出るというので、長らく積んであった単行本を引っ張り出して読む。
 東欧の架空の小国で起こる不可思議な事件を、博覧強記のエステルハージ博士が解決するという連作短篇集である。収録作は以下のとおり。

Polly Charms, the Sleeping Woman「眠れる童女、ポリー・チャームズ」
The Crown Jewels of Jerusalem, or The Tell-Tale Head「エルサレムの宝冠 または告げ口頭」
The Old Woman Who Lived with a Bear「熊と暮らす老女」
The Church of Saint Satan and Pandaemons「神聖伏魔殿」
Milord Sir Smiht, the English Wizard「イギリス人魔術師 ジョージ・ペンバートン・スミス卿」
The Case of the Mother-in-Law of Pearl「真珠の擬母」
The Ceaseless Stone「人類の夢 不老不死」
The King's Shadow Has No Limits「夢幻泡影 その面差しは王に似て」

 エステルハージ博士の事件簿
▲アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』(河出書房新社)【amazon

 おお、これはまた異色の作品集だ。タイトルが探偵小説っぽいし、ストーリーも一応はその体裁をとってはいるけれど、なんせ著者はSF畑の作家であり、語られる事件も常識外の奇妙なものばかり。その中身もペダンティズムやファンタジー要素に彩られ、加えて独自の造語・事象がふんだんに盛り込まれているから、これは手強い。

 ただ、一般的なミステリを期待してはいけない。扱われる事件はおよそミステリの文脈で解かれるようなものではなく、SF要素、ファンタジー要素、探偵小説要素がそれぞれ入り混じっており、じゃあ結果的にSFミステリ、あるいはホック『サイモン・アークの事件簿』のようなオカルトミステリの類いかとも思うのだが、表面的にはともかく、その本質は違うように思える。
 本書の殊能将之氏の解説によると、この特殊な世界観を久生十蘭や小栗虫太郎らの「戦前の国産探偵小説」に例えており、なるほどとは思うけれど、そちらはファンタジー要素、探偵小説的要素の両方を同時に満たすものが意外に少なく、こちらもまた目指しているところがやや異なるかなという感じもある。

 そこで、ちょっとネットでその印象を調べてみると、どなたかが諸星大次郎の『妖怪ハンター』を挙げていたが、個人的にはこれがけっこうしっくりきた。
 というのもエステルハージ博士は探偵役ではあるが、積極的に事件を解決するわけではない。関わりはするが、あくまで事象の本質を観察、独自の視点で検証するにとどめる。そこが『妖怪ハンター』の主人公、考古学者・稗田礼二郎に共通している。事件解決は二の次、森羅万象を読み解くことが肝で、ときには読み解けないままに終わることも珍しくない。著者はそんな世界で戯れているのである。

 というような作品ばかりなので、中には本当に意味が掴みにくい話も多い。個人的には多少なりともポイントを掴みやすい「眠れる童女、ポリー・チャームズ」、「熊と暮らす老女」、「イギリス人魔術師 ジョージ・ペンバートン・スミス卿」、「真珠の擬母」あたりが好み。
 変化球だらけの作品集なので、多少、覚悟して読むのがよろしいかと。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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