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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 02 2024

エド・レイシイ『さらばその歩むところに心せよ』(ハヤカワミステリ)

 しばらく前に読んだホレス・マッコイが非常に良かったので、少し古めの犯罪小説やハードボイルドが気になってしまう。元々好きなジャンルなのだが、ハマり始めたのはネオハードボイルドのおかげなので、これまで御三家や一部の作家を除くと、古いものはそこまで読めていない。この辺りも今後の宿題だなと思いつつ(また宿題が増えてしまった)、手始めにエド・レイシイの『さらばその歩むところに心せよ』を手に取ってみた。

 こんな話。バッキーは先輩のベテラン刑事・ドックとともにある家に身を潜めていた。二人の前には三つのスーツケースに入った百万ドルがあった。ある手段でこれを入手した二人は、これを完全に自分たちのものにするため、今後の計画を練り始める……。
 ドックはバッキーの理想のヒーローであり、自分も彼のような男になりたいと密かに憧れていた。しかし、元々バッキーの理想像は父のネイトであり、さまざまなことをネイトから教わった。だが、あるとき二人は本当の親子でなく、あまつさえ養子ですらないことを知ってしまい、自ら自堕落な生活に堕ちていく。やがて朝鮮戦争に志願し、帰国後は警察に入るあたりで運が向いてくる。そして、ある事件をきっかけにドックと知り合い……。

 さらばその歩むところに心せよ
▲エド・レイシイ『さらばその歩むところに心せよ』(ハヤカワミステリ)【amazon

 これはまいった。よいとは聞いていたが、まさかこうくるとは。悪徳警官もののハードボイルドとして読み始め、その意味でもまったく期待を裏切らないレベルなのだが、それだけにとどまらない魅力がある。

 おすすめポイントはいくつかあるが、一つはやはりハードボイルドとして優れていること。主人公バッキーがとにかくよい。
 バッキーは父親を英雄視していたが、姓の問題から仲違いする。半ば自暴自棄になりつつも、ある種の上昇志向はあり、その時々で自分なりに考えて行動する。その結果チャンスは少しずつ転がり込んでくるのだが、必ずしも自分の描いたプランではないことも多く、それがまたバッキーのプライドを削ってゆく。彼の目線の先には常にネイトが、そしてドックがおり、その偶像との差に苦しめられる。
 この屈折したバッキーの生き様に引き込まれるわけで、加えて彼のターニングポイントとなるエピソードの一つひとつが面白い。ネイトの凄さを初めて感じた事件、軍隊での勲功、ドックと知り合うきっかけの事件などなど。それだけで短篇が書けるぐらいの濃さがある。

 カットバックを使って過去と現代を交互に描く手法も、現代ミステリでは食傷気味だが、こういう使い方であれば効果的だ。現代パートでは100万ドルを手にしたバッキーとドックの潜伏の様子が描かれ、過去パートでは上に挙げたようなバッキーの半生が語られ、彼がどのような人間なのかを克明に描いてゆく。

 著者が上手いのは、そういうバッキーの生き様が本作のテーマでもあると同時に、全体の大きな伏線にもなっているということか。いやまあ、それ自体はトリックというわけでもなんでもないのでネタバレではないのだが、バッキーを深く描写することがラストへつながることは確か。
 そもそもバッキーとドックは何をやらかしたのかという興味があって、バッキーの半生を語り終わった時、現代パートと結合し、二人の本当のドラマ、そして驚きの真相が明らかになるという趣向である。バッキーの人生に深く入り込むほど、その衝撃は大きい。

 ということで、これは傑作認定。ただ、ポケミスでしか翻訳がなく、しかも長らく品切れなのが残念。ロス・マクドナルドのいくつかの作品もそうだが、こういう優れた作品を文庫化もせず塩漬けにしておくのはいかがなものか。是非とも復刊して、広く読まれてほしい一冊である。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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