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 ジョン・ディクスン・カーの『疑惑の影』を読む。ギデオン・フェル博士物であり、かつ後に『バトラー弁護に立つ』で主役を張るパトリック・バトラーの初登場作品でもある。とはいってもバトラーは本書でも十分に主役であり、ギデオン・フェル博士の影が薄いのがちと残念。それはともかくこんな話。
 
 テイラー夫人が毒殺され、容疑は夫人の話し相手として雇われていたジョイス・エリスに向けられた。逮捕され、有罪確定かと思われたジョイスの危機を救ったのは、「偉大なる弁護士」ことパトリック・バトラー。見事に無罪を勝ち取ったものの、今度はテイラー夫人の姪の夫、リチャード・レンショーが毒殺される事件が起こる。しかも死因はテイラー夫人と同じ毒であった……。

 先日の『眠れるスフィンクス』と違って、なにかと賑やかな作品である。これは主人公がバトラーであることともちろん関係あるわけで、ペリー・メイスンばりの行動力や推理力、はたまた美しい女性には目がないという性格もあって、本格探偵小説というよりは英国の伝統的冒険小説といった趣である。この作品以後、カーがフェル博士をお休みさせ、歴史ミステリを発表し続けることになるのだが、その過渡期の作品ということもできるだろう。ただ結果としては、残念ながら冒険小説的部分が勝ちすぎていて、謎解き要素と上手く融合しているとは言えない。ミス・デレクションなども工夫されており面白い部分もいくつかあるのだが、全体的にはちぐはぐな印象である。
 また、ペリー・メイスンばりなんてことを先ほど書いたが、実は本書を読む限り、バトラーというキャラクターがもう一つわかりにくい。というのも最終的にはいかにも騎士道精神に溢れた男、つまり正統派英国冒険小説的主人公という感じにはなるのだが、冒頭では妙に打算的なうえ色男を鼻にかけたようなタイプで、すこぶる印象が悪い。小説の在り方としては、事件を通してそういう男が精神的に成長していく姿が見所になるはずなのだけれど、ここの描き方が説得力に欠けるのである。
 展開に勢いがあるので読んでいる間はそれなりに楽しめるが、いざ感想をまとめると粗ばかりが思い出され、かなり辛い点数になる。そういう意味ではなかなか不思議な作品ではある。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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