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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


イーデン・フィルポッツ『狼男卿の秘密』(国書刊行会)

 終わったわけではないが、仕事が大山を越える。でも来週まではまだ息をつけそうもない。とりあえず徹夜はせずにすむか?

 さて、本日の読了本はイーデン・フィルポッツ『狼男卿の秘密』。これは「ドラキュラ叢書」の一冊なので、一応補足しておくとーー。
 今では探偵小説の古典復刻ブーム牽引役として知られる国書刊行会。だが、その前は幻想小説や怪奇小説、ゴシック・ロマンなどに力を注いでいたことも、ファンには有名なところだ。で、そのひとつに「ドラキュラ叢書」と呼ばれるものがあった。責任編集はなんと紀田順一郎&荒俣宏の豪華コンビ。長篇も含めたエンターテインメント系の怪奇小説叢書で、ラインナップは以下のとおり。

『黒魔団』デニス・ホイートリ
『ドラキュラの客』ブラム・ストーカー
『妖怪博士ジョン・サイレンス』アルジャノン・ブラックウッド
『星を駆ける者』ジャック・ロンドン
『ク・リトル・リトル神話集』H・P・ラヴクラフト他
『スカル・フェイス』ロバート・E・ハワード
『狼男卿の秘密』イーデン・フィルポッツ 
『幽霊狩人カーナッキ』W・H・ホジスン
『ジャンビー』H・S・ホワイトヘッド
『古代のアラン』H・R・ハガード 

 おおー、なかなかスゴいではないか。『妖怪博士ジョン・サイレンス』や『幽霊狩人カーナッキ』のように今では文庫で入手できるものもあるが、他はどうなんだろう? こっち方面には弱いんでわからないが、少なくとも今回の『狼男卿の秘密』はこれっきりで絶版。『赤毛のレドメイン家』『闇からの声』で有名なフィルポッツだが、オカルトものも書いてたのか、というわけで買い求めた一冊なのだ。ちょっと高くついたけど。

※以下ネタバレあり

 ストーリーはそれほど複雑ではない。親の跡を継いで広大なる領地を受け継いだ主人公ウィリアム・ウルフ卿。彼は婚約者や領地の管理人に迎え入れた親友、従兄弟、信頼する従僕などに囲まれ、幸せな日々を送っている。ところが屋敷に残る古書を偶然見つけたことから、その歯車が微妙に狂い出す。そのなかには彼が狼男の血をひく者であり、遠くない将来に破滅が訪れることが予言されていたのだ。元来、神秘主義に興味をもっていたウィリアムは、周囲の反対意見に耳を貸さず、その予言に傾き始める。次第に周囲との溝が深まってゆくなか、人狼伝説を裏付ける証しが白日の下に晒されてゆく……。

 物語の大半はフィナーレへ向けてゆったりと流れてゆく。主人公たちの暮らすストームベリイの景観、歴史、伝説そして人々の思惑、心理。これらが渾然一体となって、やがて訪れるであろうカタストロフィー(と思われる)に向けて、ゆったりと、だが確実に進んでゆくのだ。
 それらの描写がとにかく巧い。じわじわ染みこんでくるサスペンス。そこかしこに散りばめられた蘊蓄も好ましいレベル。登場人物たちの議論も、それぞれの立場で微妙にかき分けているし、ほんとフィルポッツってこんな巧かったんだ、という意外性がある。
 考えてみると、迫力ある心理戦が有名な『闇からの声』なども、そのような技術の賜といえるので、この時代の作家の教養はつくづく侮れないものがある。
 ところがところが。この作品にはとんでもない地雷が埋めてあったのだ。

 ページ数にして残り1/5を切ったところ。

 いきなり探偵の謎解きが始まりました(爆)。

 完全にホラー小説だと思って読んでいた私が悪いのか。しかし、ドラキュラ叢書っていうシリーズなんだし、物語も完全にそっち方向だし、まさか、これがミステリだとは夢にも思わなかった。
 いや、中盤で唐突に登場する従僕とか、その他もろもろ、少しひっかかるところもあるにはあった。オカルト的などんでん返しもありそうと、少なからず予想はしていた。ただ、まさかここまでとは。これって極端なこというと『幻の女』なのだ。まあ、本格というよりはサスペンスとしてのオチの付け方なので、これでアンフェアだとか言う野暮な人もいるまいと思うが、し、しかし、何というか。いや、別に犯人が意外だとかいうんじゃないんだけどね。「謎解きがある」、この事実にショックを受けてるだけで(笑)。
 あまりのショックにしばし呆然。ここまで驚いた小説も最近なかった気もするが、こういう驚き方はない方がいい。
 誰か他に読んだ人いないかな? 感想をぜひ聞いてみたいものだ。

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Comments

Edit

Y・Sさん

今となっては私の記事も相当ネタバレのような感じですね(苦笑)。
当時は本作がホラーではなく、ミステリであることは常識で、たまたま自分が知らなかっただけと思っていました。なんせフィルポッツの作品ですからね。
フィルポッツが多作家でミステリ以外の小説を多く書いていたことは知っていましたし、ホラー系を書いているのも全然不思議じゃないという先入観があったんでしょうね。
それだけに個人的にはかなりの衝撃でした。確かにまったくの先入観なしで誰かに読ませたい作品ではあります。

Posted at 08:52 on 12 30, 2020  by sugata

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【作品の内容に関するネタバレあり?/未読の人は読んじゃダメ】


こんばんは。
20年近く前に書かれたレビューへのコメントもナンですが(汗)
本書は刊行当時、その素性(真相)をまったく知らないで
読んでぶっとびました。実際に(中略)が(中略)の格好を
していたという作中のシーンは想像すると、なんか
微笑ましいです。

しかしこれ、当時の書評家がどっかの新刊評で
思い切りネタバレしながら、無邪気に、
すごい意外性だとか書いていて、
ええんかいな、と思ったものです。

この作品はミステリとして、あるいは
モンスターホラー小説として、どちらかの
ジャンルの作品だと言って人に勧めるのが
難しいという弱点がありますね。
どっちも好きそうな人間に黙って「面白いよ」と
言って読ませるのが一番無難でしょうか。

その辺の面倒臭さを別にすればなるべく
多くの人に読んでもらいたい作品ではあります(笑)。


Posted at 21:01 on 12 29, 2020  by Y・S

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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