fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ボワロ&ナルスジャック『ひそむ罠』(ハヤカワミステリ)

 昨日はフランスミステリのイメージを悪くした犯人は、ボワロ&ナルスジャックではないかと書いた。だからといってフランスミステリ嫌いかというとそんなことはない。むしろフランスミステリのファンであり、ボワナルの諸作品だっていつも楽しんで読んでいるのだ。本格というフィルターさえなければ、この作家は一級の作品を提供してくれる、偉大な実力の持ち主といって過言ではない。

 では、彼らの偉大さはどこにあるのか?
 まず心理描写の巧みなことがあげられるだろう。登場人物を絞り込み、ストーリーはシンプル、粗筋だけを聞かされると素っ気ない感じを受ける作品が多いが、その分は主要キャストの心の流れにたっぷりとあてられる。ときには対立する者の心理戦であったり、あるときは追われる側の恐怖感を煽ったり、さらには狙われる者の疑惑を駆り立てたり。描写は執拗に繰り返される。フーダニットでは突っ込んだ心理描写は御法度だが、彼らは全然本格じゃないんで、まったく問題なし(笑)。

 謎解き興味は薄くとも、オチはしっかり利かせてくれるのも偉いところだ。昨今の新本格のようにくどいぐらいのどんでん返しは一切なし。一発でパシッと小粋に決める。これがフランスミステリの良さでもある。
 なお、まれにストーリーやオチをこねくり回して自爆する作家、作品も少なくはないが、それはそれでフランスミステリの良さなので全然OK(笑)。

 さて、前置きが非常に長くなったが、そこでボワロ&ナルスジャックの『ひそむ罠』。結果から言うと、これも上記のポイントをしっかりと押さえた作品である。
 舞台はドイツ占領下にあるフランスの小さな町。主人公はどこにでもいる平凡で優柔不断な男。彼が心をよせる女性は、実はレジスタンス組織の支援者である。愛のためにレジスタンス組織に身を投じる主人公だが、彼は友人である対独協力者の暗殺を命じられる。しかもその友人は、彼が心をよせる女性の元夫であり、今では激しく憎み合う仇敵同士でもあった。板挟みにあう主人公は果たして……。

 一応殺人事件なども起こるが、見所はなんと言っても揺れる主人公の心情だ。愛と友情の間で苦しみ悩む姿がいい。女性との食事の場面、友人と酒を飲む場面、スパイの真似事をする主人公の姿。ひとつひとつが映画のワンシーンのようで、セリフのやりとりも味わいがある。なんせ登場人物が少ないので犯人はある程度読めてしまうが、それなりのオチも利いており◎。
 それこそ年末ベストテンなんかにゃ絶対入らないタイプの作家だが、うん、やっぱボワロ&ナルスジャックはよいぞ。

関連記事

Comments

Edit

ボワナルは、コレという決定打がありませんが、基本的にはアベレージが高い作家ですね。まあ、トリックとかに重きを置いていないので、筆力がそのまま評価につながっているのだとは思います。
私も『死者の中から』は好きな作品ですが、個人的なイチ推しは短編集の『青列車は13回停る』になるでしょうか。

Posted at 04:08 on 08 02, 2019  by sugata

Edit

ボワナルの古典「死者の中から」読みました。

幻想文学みたいだな、と思ったら、きちんとオチていたのでやられた、と思いました。

あれを85年版141位に入れた当時のマニアは英断だったと思います。なんとかの一つ覚えみたいに「悪魔のような女」だけじゃやっぱりねえ。

Posted at 23:23 on 07 31, 2019  by ポール・ブリッツ

« »

02 2024
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー