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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

『不思議の国のアリス・ミステリー傑作選』(河出文庫)

 本日の読了本は、不思議の国のアリスをテーマにしたアンソロジー『不思議の国のアリス・ミステリー傑作選』。
 アリスは好きな作品だし、執筆陣も以下のようになかなか豪華。特に邦正彦は戦前の探偵小説雑誌「シュピオ」で活躍した評論家で、この人の作品が入っているだけでも押さえておきたいアンソロジーだ。
 収録作は以下のとおり。

海渡英祐「死の国のアリス」
石川喬司「アリスの不思議な旅」
都筑道夫「鏡の国のアリス」
邦正彦「不思議の国の殺人」
小栗虫太郎「方子と末起」
中井英夫「干からびた犯罪」
山田正紀「襲撃」

 結論から言ってしまうと、やっぱアリスとミステリは根本的に合わないんじゃないか。アリスに近づきすぎると推理小説というよりは幻想小説になってしまうし、推理小説として成り立たせようとすると、別にアリスがモチーフでなくてもいいじゃん、というものになってしまい、完全なる融合は難しいようだ。

 一番面白く読めたのは山田正紀「襲撃」か。山田正紀の冒険小説的嗜好が見事に昇華されていて、ぜひシリーズにしてもらいたいぐらいの鮮やかな犯罪小説になっている(と思っていたら解説にやはり連作になっていることが書いてあった。『ふしぎの国の犯罪者たち』がそれ。これはぜひ読まなければ)。ところが、これは一応アリスをモチーフにしてはいるものの、アリスをほかの小説やキャラクターなどに置き換えても、ほとんど問題なく読めてしまう。

 逆にアリスの世界観みたいなものを全面に押し出した石川喬司「アリスの不思議な旅」都筑道夫「鏡の国のアリス」なんてのは、全然推理小説じゃないから困っちゃうんだ。
 特に「アリスの不思議な旅」は冗談みたいな話で、これが一番つまんなかった。バランス的にいいのは中井英夫「干からびた犯罪」。作品も面白いし、これがアリスを扱う際の理想型といえるかもしれない。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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